第28話 道行き2
「やあッ!」
クロードが剣を振り抜くと、巨大な火炎球がほとばしり出て、シールドゲーターのその巨体に燃え移った。うろこにおおわれたその身を焼き尽くされ、魔獣から悲鳴があがった。
「楽にしてやる」
ビッグスが銀色の手斧を振り下ろすと、魔の属性を持つシールドゲーターの体は
「おいらたち、やったね」
透明化を解いたミルズが顔をほころばせた。
「…………ワン」
ワンドルが吠えた。
戦闘中透明化したミルズと防御強化したワンドルは、シールドゲーターを引き付ける役目を担った。
その間俺はというと、空を飛んで仲間を「
「よっしゃ。シールドゲーターもなんとか攻略できたな」
「うむ。こいつらが何十匹と襲いかかってきても敵にならんわい」
「皆さんすごいですね。恐ろしい魔獣をものともしない」
レイニーは目をパチクリさせながら言った。
「いいえ。レイニー殿、マジックアイテムのおかげですよ」
クロードが言った。
「それは謙遜というものでしょう。ただアイテムをもっているだけでは、宝の持ち腐れ。あなたがたは使いこなしている。やはり手練れだ。私どもの目に狂いはなかった」
バニヤンは言った。
「へへ、照れちゃうな」
ミルズはあたまをかいた。
そんな話をしていた直後のことだった。
ズシーンと地響きが鳴った。
明らかに大物が近づいている。
「ふん。なかなか休ませてはくれんな。だが何がこようとわしの手斧があれば――」
などと息巻いていたビッグスだが、近づいてきた魔獣の姿を見て、一目散に木陰に姿を隠した。
「やべえ……」
その姿を俺も目撃した。
「皆さん、ここは隠れましょう……あれは危険すぎます」
クロードの額を汗が一粒流れ落ちた。
「なんだあの猿!?」
俺たちが目撃したのは巨大な猿だった。
十メートルはありそうなアカゲザルが、こちらに向かってのしのしと近づいてきたのである。一匹や二匹どころではなく、ざっと二十匹はいる。
地鳴りがして、木陰から落ちてきた雪が俺たちの頭を直撃する。痛かったが、声を出すわけにはいけない。
「キングコングかよ……」
「我々はキングモンキーと呼んでいます」とレイニー。「恐ろしい奴らです。肉食性で、人間も食べます。残虐な知性を持っていて、獲物をいたぶって食べます。下級神に位置づけられる存在ですので、ビッグスさんの斧でも一撃粉砕できるかどうか……」
「下級神? そんなものがあんなにうろうろしてんのかよ!」
キングに宣誓した言葉を撤回したくなる。こんな恐ろしいやつがうろうろしているなんて、聞いてねえぞ。
「さすが魔の山といったところでしょうか……あのクラスの敵はやりすごすに限りますね。ところで彼らは群れをなして何をしているのでしょう?」
クロードが言った。
「おそらく狩りでしょうね。きっと狙いはシールドゲーターでしょう。群れを狙っているのです」
「群れ……?」
キングモンキーの地鳴りを打ち消すほどの大きな音が鳴った。遠くで雪崩が起こったのだ。だがその雪崩をものともしないほど巨大なシールドゲーターの群れがキングモンキーの群れに飛び込んでいった。
「なにが起きてんだッ!」
「怪獣映画かよ!」
ドンクは小さく悲鳴を上げた。
ぶつかりあう巨大鰐と巨大猿。噛みつき噛みつかれ散らばる膨大な血液。遠くから飛んできたその一滴が降りかかって、ビッグスの顔が真っ赤に染まる。
「なんでわしばっかり汚れるんじゃ!」
「やっぱり幸運に欠けるな、お前」
「アホのホッシーめ、笑うでない。お前も汚れればいいんじゃ」
その後、ひときわ激しい殴り合いがあり、血がまたこっちに降り掛かってきた。
「避けろ、みんな!」
「ホッシー殿、そっちに避けては……!」
クロードが叫んだ後、俺の全身に重い液体が降りかかった。ぐへっ。息ができん。ひどい臭いだ。最悪!
「ホッシー大丈夫!?」
ミルズが叫んだ。
「なんとかな……最悪の気分だけど」
「ビッグス殿はタオルで拭えばなんとかなりますが……ホッシー殿はどうにもなりませんな」
「魔術師殿は水を作れるんじゃろ、確か。それで全身を洗えばいいではないか」
「水なら作れるよ。でも水だぞ水。こんな極寒の山奥で水浴びなんてできるかよ。たとえ山の精霊の加護があるとはいえ!」
「魔獣の血液は長く空気にさらされていると毒性を帯びます」とレイニー。「そのままでいては、命に関わりますよ」
「こ、怖っ。どんな毒なんだよ」
「神経毒です」とバニヤン。「ホッシーさんはもう十五分もそのままでいたら、全身が麻痺して、呼吸器もやられて、空気を吸えない苦しさにもだえて不安な気持ちのうちに死ぬことになるでしょう」
「ヤバすぎだろ、それ! っていうか肉はちゃんと食えたのにおかしいだろ!」
「それは妻が適切に処理しましたから」
「苦しんで死ぬ星神か。そいつは見ものだ。ケケケ」
ドンクは腹を抱えて笑った。
「やばいよそれ! ほら、ホッシー脱いで脱いで! シャツもパンツも脱ぎ捨てて、一糸まとわぬ姿になるんだよ!」
ミルズは慌てて俺の服を脱がしにかかる。
「くそー。背に腹はかえられないか……ッ」
雪が降りしきるなか、俺はコートも上着も下着も脱いだ。当然ながら死ぬほど寒い。全身がかじかむ。
「
全裸のまま杖を振り上げて、頭上から全身に水を振りかける。何してるんだろう、俺。
「ウワアアアアアアア! 冷てえええええ!」
ただでさえ寒いんだから、俺がどんな状態に陥ったか結果はいうまでもないよな。なんていうか、鼻水が凍ったよ。鼻水だけじゃないな。全身のありとあらゆる体液が凍ったね。
「ギャハハ!」
ドンクが笑った。
笑いごとじゃねえっての。
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