幕間1 ある村人の言葉

 ――ひえっ!

 おいおい、びっくりさせるなよ。

 お前は冒険者か?

 それにしても、その格好。

 そんな全身鎧身につけてるやつなんて、今どき王国の近衛兵ぐらいのもんだぞ。時代遅れだ。脱げ脱げ。

 脱げない? 秘密をかかえている? あっそう。

 まあ、それはそうと何の用だ?

 なに?

 いま村を離れて行ったやつらのことが知りたい?

 どうして?

 やつらの知り合いだって? そうかそうか。それなら教えてやる。あいつらの友達なら俺の友達も同然だぜ。


 あいつらは俺の命の恩人なんだ。

 俺はある日森の中で人攫ひとさらいに捕まっちまったんだよ。そのままどこかに連れて行かれそうになったんだが、その時あいつらが助けてくれたってわけさ。

 俺は涙ながらに言ったよ。

 あんたは英雄だってね。

 そしたら、ホッシーってやつは『俺はそんなタマじゃねえ』だとさ。

 謙遜すんなよってな。


 そんなわけで、俺は感謝のしるしに俺の家のある村まで招待したのさ。村からは多くの人間が攫われていたから、人攫い一味撲滅の知らせにみんなが喜んだ。村総出で歓待したよ。三日三晩の宴だ。

 その最中でも、ドワーフの旦那はやたらと神妙な顔をしてたな。

 ――ダークドワーフが現れたって。

 俺には何のことか分からないんだけど。

 やっこさん、村の鍛冶場を借りてなんかやってた。

 その時チラッと見てしまったんだけど、やっこさんは薄気味の悪い黒い剣を持っていたな。背筋がブルっとするようなシロモノだったぜ。それを浄化するって言ってた。


 あいつらがどれくらい村にいたかって?

 どれくらいだったかな。

 そう長くはいなかった。

 それこそ四日目の朝には旅立って言った気がするぜ。


 滞在の間なにしてたか?

 そうだな。

 ホッシーは村の鍛冶屋に杖を頼んでいた。錫杖ワンドが好みらしいんだけど、『ない』って言われたからしょうがなく鉄製の長杖を買ってたぜ。

 犬っころのやつは子どもたちと遊んでた。宴の間、俺の子も預かってもらったぜ。

 ホビットのかわいい姉ちゃんとはずっと賭け事やってたな。いやー、強いのなんのって身ぐるみ剥がされそうな勢いだった!

 エルフの兄ちゃんはずっとしゃべってたな。


 あいつらの行き先は……。

 すまえね、ため息なんてついちまってな。

 だってよ、あいつらの行き先を聞いたらつい。

 これから魔の山を目指すってあいつらは言ってた。

 そう、魔の山だ。

 頂上を目指すんだとよ。

 やめとけって言ってやったよ。

 死ににいくようなもんだって。

 あいつらは死なない程度に頑張るって言ってたけど、どうなるやら。


 えっ⁉︎

 あんたも魔の山を目指してるんだって?

 おいおい、世の中狂ってるな。

 せっかく魔王が殺されて平和になったってのに、自ら死ににいくようなマネするやつらばかり。

 俺がアンタを止める義理はないけど、やめといた方がいいぞ。

 魔の山から帰って来れたやつはいないんだからな。

 せめて、その全身鎧は脱いだほうがいいぜ。

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