第36話 勇者の戦い
先述した通り、勝負は一瞬のうちに決まった。
はっきり言って、相手が悪すぎるのだ。
まず、シンデレラが真っ向から飛び出していった。
黒い武器を手に突進してきた相手の服はずたずたに切り裂かれ、やつらはトランクス一枚の姿にされた。
それを成し遂げたのはシンデレラの「超高速」スキルのたまものであることは言うまでもない。
まいちるローブの破片、その中で、男たちはキョトンとして何が起きたのか把握しようとつとめていた。
「命まではとりません。ここで降参をするならです」
シンデレラは剣を突きつけた。
男たちはすっかり毒気を抜かれ、鉱山の寒さに、身を震わせていた。
「これ、勝てないな」
敵の誰かが冷静に言った。
そいつの視線の先には巨大なドラゴンがいた。五階建てのマンションぐらい巨大で、硬いうろこがあり、血走った二つの目を白ローブの人間たちに向けていた。
ぐるる……。
俺もいま知ったのだが、エミリーはなんの詠唱もなしに、ドラゴンを召喚したようだった。
その巨大トカゲは炎を口元にためていて、エミリーの号令を待っているようだった。
「焼かれたい人は?」
誰も声を挙げなかった。
「焼かれたくない人は?」
敵の全員が武器を捨て、両手を上げた。
こうして戦いはあっさりと終わった。
「魔王への信仰は捨てるのです。まっとうに生きるのですよ」
シンデレラは言った。
「オレらは勝てないですが」と敵。「お嬢様はあなたたちに匹敵するぐらいの力がありますよ。果たしてあなたは勝てるのですか?」
「もちろんです。相手が誰だろうと負けつもりはありません!」
シンデレラは胸を張った。
「彼らが何をしようとしているのか教えなさい」とエミリー。「魔王の残党の陰謀を許すわけにはいかないわ」
「邪神ベルゴスの復活だ。お嬢様は邪神を自らの体内に取り込もうとしている。そのためにいけにえを引き連れて山頂を目指している」
「なるほど!」シンデレラは言った。「阻止しなくては! よくわかりませんが」
「いや、分かれよ!」
エミリーが手綱をとり、ドラゴンを動かした。ドラゴンは翼を羽ばたかせ、飛び出す。風圧があたりの木々を揺らし、積もった雪を舞い散らせた。
シンデレラは俺の服の襟元をがしっとつかむと、ドラゴンの背中に向かってジャンプした。次の瞬間には俺たち三人はドラゴンの背の上だ。
「行くわよ、ドラゴン。目指すは魔王の娘!」
エミリーが言った。
山頂に向かって行進する百人以上の行列を上空から発見することはたやすい。すぐに彼らが見つかった。
「何かが起きているようですね……!?」
ドラゴンの背中から下界を見下ろしたシンデレラは何かを目にとめたようだった。平原になっている場所で小競り合いが起きていた。邪教徒につかまっていた奴隷のうちの何人かが反旗を翻したようなのだ。
「あれは……」
「きっと、あんたの仲間のエルフとホビットよね」
エミリーが指摘した。
その通りだった。
クロードとミルズが、武器を手に、白ローブの連中と戦っていた。率いるのは奴隷の人間や妖精たちで、その中にはレイニーとバニヤンもいた。手には取り返したと思しき弓矢といった武器類があった。――残念ながら、ビッグスの姿が見えなかった。
「やってくれるじゃんか」俺は笑う。うれしさからだった。「あいつらのところに急いでくれ!」
俺の返事を待つことなく、ドラゴンは急旋回し、地上へと突っ込んでいった。
空を飛ぶ巨大なドラゴンの威容に、敵も味方も悲鳴を上げた。
「ミルズ! クロード!」
俺はドラゴンの背から飛び降り、仲間の元へと走った。
「ホッシー! ホッシー! ホッシーじゃないか!」
ミルズが俺の体に飛びついた。
「馬鹿野郎、おいら心配したんだぞ。生きててよかった……」
「あなたが無事でこれほどうれしいことはありませんよ……本当によかった」
クロードが俺の肩を抱いた。
「ビッグスは……?」
「開放され無事ですが、まだ呪いの力を受け続けて倒れ伏しているんです。私はなぜか途中で体が軽くなったのですが」
「なるほど。アダムの武器を破壊したから、クロードの呪いがとけたのか」
「あなたは勇者シンデレラ殿ではありませんか? どうしてここに?」
シンデレラの姿をみとめたクロードは驚いてみせた。
「詳しい話は後です。助太刀いたしますよ」
「ドラゴンに乗っている姉ちゃんは、シンデレラちゃんのお仲間だね。魔王を倒した記念式典のときにいたのを覚えてるよ。これだけ心強い仲間がいれば、魔王の娘ちゃんも怖くないね」
ミルズが言った。よく覚えてるな。やっぱこいついいやつだな。
「よし、みんなここで反撃だ。ミチルをやっつけるぞ」
俺は拳を突き上げた。
「おう!」
仲間たち――それはシンデレラもエミリーも含んでた――は声をそろえ、各々の武器を片手に、邪教団の連中へと仕掛けていった。
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