終章 俺たちの帰還

最終話 魔神の山

 ワープゾーンが開いて、俺たち五人は最初の街の酒場へと戻ってきた。

「戻ってきたな。野郎ども。お前らならやると思ったぜ」

 酒場にはキング・ザ・ブルがいた。高そうな服を着て、高そうな杖を見せびらかし、口元に葉巻をくわえている。

「当然でしょう?」

 俺は胸を張った。

「顔つきも変わったな。男ぶりがあがったぜ」

「キング。お褒めいただき誠に痛み入ります」

 クロードはうやうやしく礼をした。

「本当見違えたわね、あんたたち」

 ウエイトレスのミーナももちろんそこにいた。

「夫と分かれたばかりだし、あんたの誰かを旦那にほしいくらいだわ」

「なぬっ!?」

 目をカッと開くビッグス。立候補者の誕生だ。

「それにしても、魔の山をもとの精霊に返したというのは本当なのか?」

 キングがたずねた。

「精霊を追い出して信仰の中心に置かれていたものを取り除いてきたんだ。いまや暗黒の雲は晴れ、精霊に見守られた穏やかな山に戻っているよ」

 俺はエメラルドの破片を見せつけた。

 ハンスの誘いには乗らなかった。

 理由は言うまでもないよな。

 後で後悔することがあるかもしれない。

 それでもいいと思えるぐらいに今は充実している。


 酒場には、よく顔を合わせていた面々が大勢居て、俺たちをたたえてくれた。

「やるじゃねえか、無スキルども!」「無能でも群れればなんとかなるんだな!」「お前らの諦めの悪さに乾杯!」

「これじゃあ、褒めてるのか、けなされてるのかわからないが」

「もちろん、褒められているんですよ!」

 クラッカーを鳴らしたのはシンデレラ。

 シンデレラたちもここに駆けつけていた。

「ありがとう。何度もいうけど君のおかげだよ。マジで」

「本当、何度もそういいますよね。ホッシーさんは。何度もお返しますけど、ここまで頑張れたのはアナタたちの実力なんですってば」

 シンデレラは言い張った。

 でも、俺は譲る気はない。

「頑張れたのは本当にシンデレラのおかげなんだって。戻ってこれたら結婚を申し込もうと思ってさ……」

 俺はそう言った。

「えっ!」

 シンデレラは口元を抑えて顔を真っ赤にした。

「うそですよね!?」

「本当さ。そのために頑張ったようなもんだ」

 俺はポケットから小箱を取り出し、シンデレラに手渡した。中に入っているのはビッグスに細工してもらった琥珀こはくの指輪だ。指輪をめにしてシンデレラはぽかんと口を開けた。

「こいつは驚いた」

 キングは目を丸くしながら言った。

「無スキル野郎がよりによって勇者シンデレラに告白とはな。身の程もわきまえねえ、なんとも思い上がったことをしやがる。でも気に入った。ロマンがある!」

 キングは声を張り上げ、拍手をした。

「ついに言ったね」

 ミルズはウインクを送ってきた。

「遅すぎるくらいだ」

 ワンドルは微笑んでみせた。


「あのー、結婚を申し込んでしまいました? わたくしに……」

 だというのにシンデレラの顔は明るいとは言えない。いや、むしろ暗い。眉根を寄せて、心配するような視線を俺に送ってきている。

「あれ、これもしかして」

「フラレるところなんじゃねえの? ガハハ」

 ドンクは大笑いした。

 誰だ、ロバをこの酒場に入れたのは。

「ドンマイじゃ、ホッシー。女なら星の数ほどおるんじゃ。相手がミーナ以外なら応援するぞ」

「まあまあ、ビッグス殿。焦らずに。まだシンデレラ殿はなんとも返答していません」


「すみません……すみません、ホッシーさん!」

 シンデレラは頭を下げてきた。

 ――ということは。

 終わったな俺。

「いいんだよ。そういうこともあるわな……」

 てか、37章で好きって言ったじゃん。ヤンデレ化するぞ? 男のヤンデレは恐ろしいぞ?

「あのっ。違うんです。わたくしにはある〝呪い〟がかかっているんです」

「呪い?」

「ええ。魔王討伐の過程でどうしても魔神の力を借りる必要があったんです。その時彼と形の上での婚約をすませていまして……そのせいでわたくしに愛の告白する者の寿命を一年にしてしまう呪いがかかっているんです……!」

 シンデレラはまくし立てた。

「あったわねー、そんなの」

 エミリーは言った。のんきにビールを飲む。

「じ……寿命一年!?」

 俺の問いかけにシンデレラは首を縦に振った。


「シンデレラ殿、呪いを解くにはどうしたらいいんです?」

 クロードはたずねた。

「魔神の山を登るしかありません。ズルせず、自分の足で麓から山頂までを歩く。そうすれば呪いが解ける仕組みなんです」

「ウソだろ……」

「本当です! 今すぐいきましょう! あそこに行くにはドラゴンを使ってもかなりの日数がかかります」

 なんかすごい絶望的な話を聞いているような気がする。

 俺の寿命が唐突にあと一年……?

「また冒険に出なきゃいけないのかよ! ちょっとは休みたかったよ!」


「ほかならぬホッシー殿のためなら私は協力いたしますよ」

 クロードは言った。

「おいらだって協力をためらわないね」

 ミルズはウインクした。

「ふん、わしも暇つぶしに付き合ってやるわい」

 ビッグスが言った。

「…………」

 ワンドルは無言で尻尾をふった。

 俺の奢ってやったソーセージを食べている。

「ちょっと待たんか。メディアを呼んでいるんだぞ? 取材くらい受けていけよ!」

 キングが叫んだ。

 その叫び声を背に、俺たちは飛び出した。

 目指すは魔神の山。

 その踏破を求めて。

 

 俺の肩をつついてくる指があった。振り向くとシンデレラが俺をまっすぐ見つめていた。

「お伝え忘れていました、ホッシーさん。私、婚約を受けいたします」

「本当?」

「ええ! 本当です。これで私も余命一年の呪いを受けました!」

 シンデレラは誇らしげに薬指の琥珀をかかげた。

「バカじゃないのもう!」

「バカです、私!」

 俺たちは抱き合って喜びあった。

 この喜びだけは生涯忘れることがないだろう。

 どれだけ生まれ変わってもこの胸に刻まれていることだろう。


「外にエミリーさんがドラゴンを呼んでいます。いきましょう、ふたりとも」

 クロードが言った。

「おいらが一番乗りだ」

 ミルズは目を輝かせた。

「ボーッとしておる場合か、ホッシーよ。急げ急げ!」

 ビッグスが言った。

「次も楽しい冒険にしよう」

 ワンドルが言った。


 ゴールデン・レトリバー=裁定者よ見ているか。

 俺は一年後にお前らのもとに行くなんてまっぴらだからな。

 向こうで得られなかった幸せをこっちではつかんでやるよ。

 見ていてくれ。



終わり

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異世界転生したけどスキルもないしモテないし野郎グループで魔の山踏破する 馬村 ありん @arinning

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