第2話 現実世界では★
ゲームの終了ボタンを押した少女、鹿島芽依は今やこの世界で当たり前となったVR世界への接続器であるヘッドギアを外す。
「初期設定とか色々やった上で一週間あっちで過ごしたのに、こっちだとまだ一時間も経ってないのか。やっぱりすごい技術だ。なのに何で売れなかったのやら」
芽依がプレイしていたゲームは『疑似転生』と何の捻りもないRPGゲームであった。天才ゲームプログラマーであった父親とその部下たちで、試行錯誤の末作り上げたのが、このゲームなのである。
「まあ理由は明白か。今、VRで普通にゲームを楽しもうとする人の方が少数派なご時世にこんなの作って売れるわけないしね。」
VR技術の発展により没入型VRMMORPGが凄まじい人気を泊した。しかしゲーム世界を主の世界とし、現実に世界に帰還しない者などが社会現象となってきた頃、二つの革命的な技術の開発によってこの世界はVR技術が必要不可欠となった。
一つは『時間圧縮』技術である。これはVR空間内での時間経過が、現実世界での時間経過よりも遅く、VR空間内にいれば、様々なことが長時間出来るようになった。
そしてもう一つは『疑似魔法具』通称『箒』の開発である。これまで夢物語であった魔法を、現実世界で普通に使えるようにした夢のような機械であった。
しかし魔法には一つ問題があった。新技術ということもあるが、『箒』で魔法を扱うのは難しく、この技術を開発した博士やその助手たち以外で魔法を発動できるものは少数であった。開発当初はインチキ扱いをされていた程である。
そんな時にこの『箒』で魔法を発動できる一般人が現れた。彼曰く、VRMMORPGで魔法を使う感覚と『箒』で魔法を使う感覚がそっくりだと言う話であった。
そのため『箒』の発売が本格的に検討され出した頃にはVRMMOをやる人口が急激に増加し出すという社会現象が巻き起こされるのであった。
今では魔法は日常となり、学校の科目にも魔法が追加されるほど普及されている。
そして魔法を含め色々な事柄をVRゲームで時間を圧縮して学習する時代となっていた。しかし魔法が日常となってしまったため魔法習得用にRPG風の世界観のゲームはあっても、しっかりとした世界観の古風なRPGの人気は落ちてしまったのだ。
そんな時代において芽依の父親は本格派RPGゲームを製作した。その内容は自身の大部分のエピソード記憶をブロックした状態で、異世界転生を行い第2の人生を楽しんでもらうという設定であった。技術的には素晴らしく父親の
「ゲームだと分かったら転生の醍醐味が薄れるから記憶をブロックしてそれが現実だと思ってもらう。」
と言う意図も芽依には、ある程度理解出来るのだが、残念ながらVRゲームで魔法など色々なものを短時間で学習するというニーズに逆行したこのゲームは、開発したは良いが売ってくれる会社も無く、自費で販売するも全く売れなかった。
この失敗によって父親の会社は倒産。金だけが目当てで結婚した芽依と血の繋がらない母親は、実子である妹と金だけを持ってとっとと離婚。その数ヵ月後に父親も失踪。このゲームによって一家離散となってしまったのだ。
そんな絶望的な状態と言っても過言ではない環境下にいながらも芽依の表情は明るい。
「まあ父さんが残してくれた特許とかのお金のお陰で一人でも大丈夫だからいいけど。まああの父さんのことだ三年くらいしたら帰ってくるでしょ。それにやっとうるさい義母さんもいなくなったし、好き勝手やるぞー」
教育ママであった義母さんは学習ゲーム以外を芽依にプレイさせてくれなかった。父親に似てゲーム好きの芽依にとって漸く解放されたという認識なのだ。
その上、金の心配は特に無く、父親も渾身のゲームが売れずに拗ねているだけだろうと芽依は思っていた。
「さてさて転生生活を再開するか。あ、ただ遊んでる訳じゃないよ。これで私が魔法競技で優秀な成績を取れればこのゲームの宣伝にもなるかもしれんしね。いやー忙しい忙しい」
誰もいないのに言い訳をする芽依。
魔法が発達した結果、魔法競技なども盛んに行われているのだが、当然、芽依はそんな事には興味が一切無い。
芽依の興味はゲームに集約されているのだ。
「モンスターとかと戦闘してみたいな。まああっちの私も私だし、そういう方面に進んでくれるだろう。じゃあやろうかな。」
そう言って、芽依は再びゲーム世界に飛び込むのだった。
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