第41話 雷虎 前★
冒険者として活動し始めてそろそろ2年が過ぎようとしていた。メイリーのランクもDまで上がり、この街での目標のランクまであと1つとなっていた。
組合で依頼を受注しない日は、家の手伝いやティーチからの依頼、それに魔獣増加の原因探し等を行っているメイリーだが、最近、ライルの発案で新たに事業を展開する動きがあるらしく、その関係からか、あまり手伝いは要求されなくなっていた。
(ライル兄さんがって部分が心配なんだよな。まあ別に私にあんまり関係無いからいいけど)
そのためメイリーは依頼を受注しないときは、魔獣増加の原因究明を行うべく、色々と探し回っているのである。
新たに習得した感知魔法のお陰もあり、前よりもスムーズな探索が可能となっていた。
いつもは感知の精度を重視して、狭い範囲で行っているが、今日は感知の精度を犠牲に感知範囲を最大限広げて捜索していた。これをすると小型の魔獣などを見逃すことになりかねないので、あまり行わないのだが、だんだんメイリーがこの街を拠点とする時間も無くなってきたため、範囲を広げての探索もし出したのだ。
(でもそう簡単には見つからないな。『地図化』でここら辺の地図ほとんど完成したのに、未だに見つかって無いんだし。となると夜行性かな?)
基本的にここの捜索は昼間しか行っていないことを思い出す。
メイリーは、ここら辺一帯の地図を確認し、魔獣が寝床にしそうな場所をピックアップする。
何個かハズレが続き、そろそろ日が暮れだしてきた。
今日も収穫無しかとがっかりしつつ、洞穴らしき場所に到着する。その瞬間、背筋が凍ったような錯覚がした。
慌てて感知魔法を切る。圧倒的な威圧感を洞穴から感じる。
メイリーは『空間魔法』と『鑑定眼』の併せ技で、洞穴の中にいる存在がどんな化物なのかを確認しようとする。
冒険者生活でよく使うため成長も著しい『鑑定眼』は、普通の魔獣からなら、名前や年齢、強さや保有スキルなどまで様々な情報を視ることが出来る。しかし今回は種族名しか鑑定出来なかった。
洞穴にいた魔獣の名前は『雷虎』。
大型魔獣の一体で魔獣知識豊富なメイリーも、殆ど何も知らない魔獣であった。
(雷虎。まあ名前から雷魔法を使いそうか? 凄いな。直接相対した訳でもないのに。って不味いな。)
日が暮れ始めているためか、夜行性の雷虎が起きてきてしまった。
(今なら逃げ切れるか。どうす――!)
メイリーが悩んでいる間に、雷虎は、メイリーを発見したようである。
かなりの距離が離れていた筈なのに、ほぼ正確にメイリーの場所を知覚し、雷魔法を放ってきた。
「…あぶないな」
「ガァーヴ、ガァー」
「まあ、最初から選択肢は1つか。さてやるか」
ここから逃げる隙は、与えてくれそうにないと判断したメイリーは、寝床から出てきた雷虎に向かって構えた。
雷虎と暴風狼がどちらが強いかと言われれば、雷虎で間違いないが、メイリーにとってどちらがやり難いかと言えばどちらとも言えない。
暴風狼は風魔法によって攻撃も防御もする。それに比べて雷虎は屈強な体躯に、雷を纏い身体強化をしての接近戦に加えて、雷魔法で遠距離戦も行ってくる。
しかし、防御魔法は使ってこず攻撃は身体能力に任せて回避するだけと言う力業である。
そのため攻撃が全く通用しないと言う訳では無いようだ。
ただ、やり易いのと勝てるのはまた別物であるが。
「ガァーヴ、ガァー」
「くっ!『風楯よ』」
(速くて防ぎ切れないし、ダメージ負うと電撃で一瞬、行動停止にされるし。強いな)
洞穴に到着する前から、肉体強化の魔法を何個か重ねているので何とか雷虎のスピードに置いてかれずに済んでいるが、それでも防御するのがやっとで、反撃できない。
更にもう何度か攻撃を食らっており、かなり劣勢である。
「『土石壁よ、』」
「ガァーウ?」
しかしメイリーも、ただ何も出来ずに防戦一方と言う訳ではない。雷虎が自由に動き回れないように、防御をしながら地形を有利に造り変えていく。
しかしどうしても手が足りない。そのため高位の魔法が発動できず、威力不足となってしまう。
(雷魔法は何とか耐えられるくらいの痛みだが、直接攻撃の打撃、斬撃とそれに付随し行動停止にされるのが痛いな。そうでなければ反撃も出来るのに)
相手は大技を使わずにこのままじわじわ追い詰めていけば勝てる状況のため、決定的な隙でもなければ最高威力の攻撃などしてこないだろう。
そのため暴風狼戦で使ったカウンターも使えない。メイリーの低威力の魔法では大したダメージは与えられないし、高威力の魔法は、発動準備中にやられるか、回避されるのがオチだ。
しかもここは光が届きにくい森の中。もう殆ど日が沈んで来たせいもありほぼ夜である。夜行性である雷虎がどんどん有利なフィールドになっていってしまう。
不利な状況ばかりで思考が鈍くなってしまっていたようだ。そのため、
「ガァーウァーー!」
「まずっ!がぁぁ!」
今後の展開に付いて考えるあまり、目の前の雷虎を疎かにしてしまったメイリーに、雷虎の『雷轟』が飛んでくる。
雷の衝撃と、内部から焼けるような痛みを受け、一瞬だが完全に意識が飛ぶ。
なんとか持ち直したメイリーが顔を上げるとそこには、攻撃の構えを完了させた雷虎が立っていた。
(ヤバい。殺られる。)
命の危機を感じたメイリーは回避行動をとろうとする。しかしここで緊急事態が発生する。
雷によって全身の筋肉が麻痺したのか、ピクリとも体が動かないのである。
(こんな時に、どうする、どうする、どうする?)
絶体絶命のピンチ。
そんなメイリーの心情など雷虎はお構い無しに高速で突進してくる。前足で切り裂く積もりなのだろう。
「ガァーウァーー!」
(声が出ないから詠唱も、頼む『閃光よ』)
メイリーの願いに呼応したのか、無詠唱での魔法の発動に成功し、閃光が辺りを覆った。
追い詰めた獲物がまさかの閃光を放ってきた。予想外の不意打ちに目をやられる雷虎。
かなりの速度で突進していたが、閃光のため一瞬、メイリーを見失ってしまう。そんな状況では、まともに攻撃など出来る筈もなく、横たわるメイリーの隣に生えていた大樹に体当たりしてしまう。
大樹が雷虎の突進により薙ぎ倒される様子を見て、直撃していたらお陀仏だったなと思うメイリー。
そうこうしていると、メイリーの麻痺も、雷虎の眩耀も回復する。
「ガァヴ、ガァーヴ!」
「怒ってるな。こっちも同じくらい怒ってるよ。だから決めてあげる。次の攻撃で。暴風狼と戦ったときは出来なかった奥の手で」
悠長に勝負していたら危ないことは、身に染みてわかったメイリー。
それならば奥の手を使い、一撃で勝負をつける覚悟を決めるのであった。
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