第42話 雷虎 後★
負け筋はそれなりにある。相手が遠距離攻撃を選択すれば厳しいし、雷魔法でまた麻痺してしまえばそのまま殺されるだろう。
(そうなったら、そうなったで仕方がないな)
転生というチャンスを与えられたからか、それとも前世からの性格なのかは分からないが、メイリーは達観していた。
だからこそこの戦法を選択できたと言える。
メイリーは、自身が今、撃てる最高火力の魔法の準備に入る前。
本来なら動きながら行うそれを立ち止まって発動にだけ集中している。
先程まで防御魔法と回避行動をして何とか有効打を逃れていたメイリーが攻撃にのみ専念しているという、不気味な様子に雷虎も危機感を抱き、迎撃体勢に入る。
本来ならばこの魔法を躱してから攻撃を仕掛ける場面なのだが、この戦いで唯一と言っていい有効打を食らい怒りを露にしている雷虎は、今度こそ息の根を止めようと襲いかかってきた。
「『焔の槍よ、敵を穿ち、」
「ガァーウァーー!!」
雷虎が接近してきても、メイリーは詠唱を続け、回避行動を取らず、右腕を前に付きだし牽制するのみである。
先程、閃光魔法にやられた雷虎は、一瞬速度を緩めるが、即座にブラフだと看破し、付き出した右腕ごと肩まで深々と噛み付く。メイリーが羽織っている暴風狼の毛皮を使用した外套により、噛みちぎることは出来なかったが、重症である。雷虎は勝利を確信し、メイリーの苦痛に支配された表情を確認しようとする。
しかし雷虎の予想とは裏腹に、メイリーは笑顔で雷虎を見つめる。
その表情を見た瞬間、野生の勘が危険を察知し、雷虎はメイリーから離れようとする。しかしその行動よりも早く、メイリーは残った左腕で雷虎の頭を押さえつける。
雷虎は左腕の拘束から逃れようと暴れ出す。しかし肉体強化を何重にも施しているメイリーからは、そう簡単には逃れなれない。
「ァーー!ゥー!」
「燃やし尽くせ』」
雷虎に口腔内にある、右腕から『焔槍』を発動することで、雷虎を体内から焼き付くす。これがメイリーが考えた奥の手であった。
右腕を付き出すことで吹き飛ばされる危険のある体当たりは予防し、更に噛み付きやすい位置に右腕を置ける。
噛みちぎられたら万事休すであったが、暴風狼の外套はかなり頑丈である。そう易々とは破れないだろうと思ってはいた。
高威力の魔法は準備に手間取り当てることも難しいが、超至近距離から当たる心配は不要である。
雷虎も高位の魔獣のため再生力は高いが、残念ながら口の中から焔槍をぶち込まれて、内蔵を焼かれても直ぐに元通りとはいかない。
そして、メイリーには奥の手の『自動回復』があり、死にさえしなければ、最悪どこまで怪我しても大丈夫である。
メイリーには捨て身の攻撃が出来ると言うことを雷虎は知らなかった。そこが勝敗を分けた点であった。
(まあ奥の手と言うか、『自動回復』が無かったらまず戦えて無いがな。取り敢えず勝った。)
『鑑定眼』で雷虎の死亡を確認する。
超至近距離で『焔槍』を放ったため、右腕は傷と火傷でぐちゃぐちゃである。傷口に回復魔法を掛け止血し、魔法で痛みを緩和させていなければ、のたうち回っていただろう。
『自動回復』の効果である程度回復するまで待った後、ゆっくりと雷虎の処理を行うのであった。
雷虎の処理まで済ませたら、もうすっかり夜になってしまっていた。
報告は、翌日に全て回しても良かったのだが、流石に大型魔獣がいたとなれば一大事である。
『自動回復』でも治り切らない傷と疲労を我慢し、ステンド家に向かう。
ステンド家に着いた頃には、右肩と右腕の傷以外は大方治っていた。しかし装備品等は血だらけの状態のままであったので、門番には止められてしまう。
しかし彼らとも6年間の付き合いである。着替えることを条件にティーチに会えることになった。
着替えに侍女が手伝いに来てくれることになった。いつもなら遠慮するところなのだが、ここにある着替えは貴族らしいきらびやかなモノばかりであり、今の右腕の状態ではとても着れないので、素直にお願いすることにした。
するとガンルーの妻である、侍女のアリスが来てくれる。
「大丈夫でございますか?メイリー様。」
「大丈夫ですよ。ちょっと虎に腕ごと食われかけただけなので。」
「え、ええ!? それはどういう。」
「まだ言えるかどうかわからないので、全部は言えませんが、多分もうすぐガンルーさんが帰ってきますよ?」
メイリーの衝撃発言に驚きを隠せない様子のアリスさんだったので、しょうがないのでここは夫であるガンルーの力を借りる。
何とか落ち着きを取り戻したアリスに、手伝って貰いながら、何とか着替えを完了し応接室に行くとすでにティーチが待機していた。
「傷だらけだと聞いた。君ほどの強者がどうした?」
「…単刀直入に言えば、魔獣増加はおそらく収まると思います。徐々にだけど前と同じような感じに戻るでしょう」
「原因を見つけたのか?いや、倒したのか?それはいったい何だったのだ?」
「えーと、見つけて倒しました。おそらくですが、魔獣増加の原因は大型魔獣、雷虎でした。えーと見せましょうか?」
「あ、ああ。見せてくれ。」
メイリーは収納空間にしまってあった雷虎の亡骸を取り出す。死してなおはっきりと分かる強大さにティーチは言葉を失う。
「おそらくこの雷虎が原因でしょう。最奥地付近に雷虎の寝床がありましたし。もしこれが原因ではなく、もっと強大な魔獣がいた場合は、流石に個人じゃ手に終えないので、国に掛け合ってください。」
「…ああ。」
驚き過ぎて反応が鈍いティーチ。
「それでこの雷虎はどうしましょうか?正直、外套も今回の戦闘でボロボロなので、これで新しく装備を整えたいんですが。」
「そうだな。もう隠すことも無いだろう。これは組合にも報告してくれ。私も近隣の領主たちに報告しておこう」
「いいんですか?」
今までメイリーの強さを隠そうとしていたティーチらしかぬ行動であった。
「もう、君の強さは近隣に知れ渡っているよ。しかしどのくらいかはまだはっきりと伝わっていない。いい機会でもあるしね。」
「そういうことならありがたく。それとこの雷虎の素材での装備なんですけど。」
「ああ、わかっている。こちらのツテを使い最高級の装備になるよう手配しよう。」
「ありがとうございます。」
「いや、お礼を言うのはこちらの方だ。ありがとう。さて、今日はまだ時間は大丈夫かい?」
「はい?大丈夫ですけど?」
「それほどの強者との激戦、さぞ疲れただろう。料理長に頼んで料理を作って貰うから食べていってくれ」
「それはありがたいです。昼に干し肉を食べて以降、何も食べてませんのでお腹がペコペコなんです」
「その時に雷虎との激闘を聞かせてくれると嬉しい」
「はい」
そのあと、メイリーは雷虎との激闘の様子をティーチ、そして話を聞きつけ集まってきたテイルたちにもの語ることになるのだった。
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