第43話 雷虎 その後★

 翌日、メイリーの右肩の噛み傷は完全に塞がっていた。

 『自動回復』のお陰であるが、暴風狼の外套が無ければ確実に右肩から下が無くなって、右腕を媒介に放った止めの一撃は不発に終わっていたことだろう。

 もし奇跡的に発動できていたとして、倒せていたとしても回復には、更に時間が掛かっただろう。

昨日は遅くまでステンド家や使用人たちと食事をしながら雷虎と激闘を語り、その後この傷で帰すのも心配だからと屋敷で一泊させて貰った。

 朝起きると侍女の人々が心配そうに看病してくてされていたので、塞がった傷痕を見せて平気なことをアピールしておいた。

 朝食もティーチたちもと一緒に取ることになった。


「それにしても『自動回復』というスキルは、危険が多い戦闘職にはうってつけだな。昨日は腕が取れかかっていたにも関わらず今日には傷痕がうっすら見える程度。些細な傷などは帰りの道中で消えてしまっていたのだろう?」

「メイリーは凄いからな。まあ流石は俺の師匠なだけはある」

「ふふふ、本当ね。」

「はぁ」

(褒め殺されるってのは慣れないな)


 そんな朝食を終えたメイリーは、雷虎討伐と、怪我により数日間療養することを伝えに冒険者組合に赴くことにした。

 『自動回復』のお陰で直ぐに肉体は完治するだろう。しかし死にかけた事に変わりはなく、精神的には間違いなく磨耗しているだろうと言うことでの判断であった。

 

 そのためか、メイリーは遠慮したのだが、ティーチたちの提案で、お付きにアリスを同行する事になった。


「すいません。アリスさん。お手数をおかけてしまって」

「いえいえ、メイリー様はこの街の、更にはこの近隣の領地の救世主様でございます。堂々とお使い下さい。それに傷は塞がっていてもまだ右腕は動かせないのでしょう?」

「…バレてましたか。それじゃあすいません。」


 一流の侍女は観察眼も優れているのか、右腕がまだ元通りに動かせない事がバレたメイリーは、好意に甘えることにした。

 アリスを連れて組合に到着する。侍女を連れたメイリーは、いつもよりも更に目立ってしまう。

 しかし、ここ2年でそんなのにも慣れてしまったメイリーは、受付カウンターにいるお馴染みの受付嬢、レレナに声を掛けた。


「こんにちは。」

「はい。メイリーさん。こんにちは。今日は依頼、て訳では無さそうですね。また魔獣狩りですか?いいですけどランクを上げたいなら依頼にある魔獣も狩らないとダメですよ?」

「まあ今回はそれだけじゃ無いんだけどね。一応、ティーチ様からの言伝も預かっています。別に誰でもいいんで、レレナさん聞きますか?」

「領主様からの、いえいえそんな!奥に組合長もいるので案内しますね。」


レレナは慌てて首を振り拒否し、提案した。しかしメイリーはその提案に嫌な顔をする。


「はぁ。でも手紙なんで後で渡して貰えますか?私、どうもあの組合長は好きになれない。あと、ちょっとこの件で怪我を負ってしまって、数日間は依頼を受けられ無いのでその報告に。」

「えっ?」


レレナは数少ないメイリーのスキル『自動回復』を知っている人の一人である。そのため怪我で療養が必要と聞き驚いてしまう。


「そんなに大怪我を負ったんですか?」

「まあそうなりますね。」

「どんな魔獣ですか?それとも盗賊団とか?」


 取り乱すレレナ。メイリーの強さをこの2年以上の間、受付嬢として見てきたレレナにとってメイリーが大怪我を負う程の相手がこの近隣にいると言うことは恐怖でしかない。

 メイリーはしょうがないので、説明することにする。ただ口で説明しても分かりにくいと考えたメイリーは、実物を見せながら説明することにした。


 『空間魔法』の『収納』から雷虎を取り出しながら話し始めるメイリー。


「えーと、この雷虎と戦ったんだけど、ってあれ?」

「雷虎?本物?あばば…」


 唐突に大型魔獣を間近で見せられたレレナは、雷虎の放つ威圧感を真面に食らい、恐慌状態に陥ってしまうのだった。


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