第44話 馬鹿と天才★☆
メイリーの偉業はすぐに近隣の各領地に存在する冒険者組合に広まった。
大型魔獣は基本的に冒険者たちが徒党を組んで大規模討伐隊を結成して倒すのが一般的である。
それを単独で討伐してしまったのだ。そのため実物を見せられたステンド領の冒険者組合や、メイリーが訪れた事がある近隣の組合では信じられた。一方で他の組合や領地では、ステンド領主の貴族紋を持った冒険者と言うこともあり、ティーチが自身の威光を強めるために流した与太話だと考えられるのだった。
ティーチからすれば、雷虎の亡骸を使ってパレードでもしたい気持ちであったが、メイリーとしては、今回壊れた暴風狼装備の変わりも欲しいし、目立ち過ぎるのも好ましく無いためそれは拒否するのであった。
そして今回の雷虎討伐により、近隣領地を転々としていた者も、ようやくステンド領への帰還が叶いそうであった。
「残念だったな。英雄になり損ねて。」
「そうでもないですよガンルーさん。英雄になってしまうと、奥さんにも録に会えない寂しい生活を送ることを、示してくれた優しい人もいますしね」
「ま、まあな。そんな寂しい生活も、メイリー、お前のお陰で終了だ。昨日、正式にライム領主から帰還の許可が降りた。帰り支度を済ませて明日には帰る準備が整えそうだ」
「そうですか。なら明日また迎えに来ますね。」
ガンルーは、ライム領やそれ以外の近隣領地から様々な勧誘を受けていた。そのため雷虎討伐の一報から直ぐに帰還と言う事が出来なかったのである。
旋風狼討伐から数年、ガンルーも強くなり、単独での旋風狼の討伐と言う嘘の武勇も、今なら真実に出来る程であった。
「今回の功績で特別に私のランクがCに上がるかもしれないんですよ。もし、そこまでじゃなくてもランクアップは早まると思います。まだ時期は決めてませんけど、おそらくテイル様と同じくらいでステンド領を出ると思います。なので頑張って下さいね?」
「ああ、私がステンド領、最強の騎士として領地を護っていくさ。」
嘘から出た真と言うか、嘘によって作られた立場に負けず、努力によってガンルーは真実にしたのだ。
そんなガンルーは、自身に満ちた表情でメイリーに決意を告げるのであった。
―――――――――――――――――
ゲームを終えた芽依は、自身の明らかな変化に戸惑っていた。
(旋風狼や暴風狼を倒した後にも感じたな。ゲームの中ならレベルアップで片付けられるんだが。やっぱりはっきりと魔法の感じが違っているな。)
上手く説明出来ないが、芽衣の中の魔法関連の何かが大幅に向上している確信があった。
現代に置いて魔法の発動は『箒』の存在が必要であるが、この『箒』を動かすのに必要な所謂『脳力』を鍛えるのに、記憶をブロックしてここがゲーム世界では無く、異世界だと思わせると言うシステムが一役買っているかもしれない。
また実戦は練習の何倍も成長できると言うように、雷虎との激闘の際、絶体絶命のピンチに直面したとき、メイリーは咄嗟に無詠唱での閃光魔法を成功させたが、その経験は芽衣をも成長させたのだろう
(この現象を狙ってやってたとすれば父さんの評価を上方修正しなければならないけど、無いな。それは無い)
芽衣は父親の才能は認めていたが、それ以上に父親の商才の無さもわかっているつもりだ。
しかしもしこれも狙ってやっていたとすると、このゲームのセールスポイントが一気に増えることになる。
もしそうならば、流石に父親であることが恥ずかしいレベルで商才が無いことになってしまう。
(馬鹿と天才は紙一重って言うけど父さんは多分、馬鹿の方だろ。そうに違いない)
大幅な成長に本来は喜ぶべきなのだが、芽依が成長を続ければ続ける程、父親の商才の酷さが露呈する結果となり、芽依のテンションも下がり続けるのであった。
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