第48話 教頭の話☆

早いもので、芽依が高校生になって初めての夏休みが到来する。

 無駄に長いだけの終業式は、『魔法演舞』本選に出場する芽衣の激励会のせいでさらに長くなってしまったが、終わってしまえば関係はない。

 芽依としては今年も、これまでと変わらずゲーム三昧な日々を送るつもりである。とは言え、毎年恒例の天童家との予定や『魔法演舞』の本選など避けられない予定も詰まっていた。


「はぁー疲れた」

『ピンポンパンポン! 1年○組鹿島芽依さん、鹿島芽依さん。至急、職員室まで来てください。繰り返します――』

「勘弁してくれ」


別に頼んでもいないが、帰りのホームルームでクラスメートに激励会をして貰ったため、へとへとな芽依は、帰り支度を済ませたところで職員室へ呼び出しを受けてしまった。


 流石に教師からの呼び出しを無視するわけにも行かず職員室に行くと、授業等で見たことの無い年配の教師が芽依を待っていた。


「鹿島芽衣さんだね。こんにちは。」

「はぁ。こんにちは。えーと?」

「教頭の高松です。宜しく。本当なら校長先生から激励をっと思っていたんだけどね。校長先生は終業式の後すぐに出なきゃいけない用事があったからね。代わりに私がってことでね」

「激励会なら散々やってもらいましたけど」


嫌味でそう言うが教頭先生はニコニコしているだけで、穏やかそうな先生である。

 芽衣もこの学校に来て3ヶ月半のため先生を全然知らないのだが、まさか教頭だったとは驚きである。


(それに校長先生って言われても誰だかわからないから、別にいいんだけど)


 激励など余るほど貰った芽依としては、早く帰らせて欲しい。そのため不満ですオーラ満載の目で教頭を見てると、それを察したのか、話を切り出してきた。


「はは、学生の貴重な時間を無駄にしてはいけないし、本題といかせて貰うよ。君に取材や話、おそらく企業からのスカウトでしょうか。それらを求める電話が何件も来ています。単刀直入に聞きますが、受けますか?」

「うーん。断っといて下さい。そういうのは好かないので。」

「はい、ではそのようにしておきますね。」

「…?」

「林藤先生より貴方のことはある程度聞いています。貴方がこういうことをやりたがらないことも。ただ、学校側としても生徒に確認せず断るわけにもいきません。それに校長先生は受ける気満々でしたからね。まあですが、これで確認は終わりました。校長にも私から言っておきます」


 教頭の言葉に 芽衣は安堵の表情を浮かべる


「それでは話は以上です」

「ありがとうございました」


 教頭先生の気遣いに感謝しつつ、職員室を退室するのだった。


芽衣が退室した後、1人の教員が教頭に話しかける。


「良かったんですか?校長先生から絶対に了承させろって言われてたんじゃ?」


 心配そうに聞いてくる教員に対して、高松は朗らかな笑みを浮かべながら返答する。


「いいんですよ。鹿島さんはあまり目立つのが好きではない。そんな彼女に無理矢理取材など受けさせて調子でも崩されたら困ります。それに、あの子はまだ一年生です。ここで我々教師陣に不信感を持たれては、本末転倒です」

「はぁ。まあそうですね」

「私は予選を観戦させていただいて、鹿島さんなら、『魔法演舞』本選でも十分な成績を獲得出来ると確信しています。そうすれば自ずと学校の評判も高まるでしょう?」


  高松は、笑みを浮かべたままであったが、その笑みには有無を言わさない確かな圧力が存在した。

 教師は高松の笑顔の圧に負け、黙るしか無かった。こうして学校側の協力もあり芽衣が取材やらに煩わせられることはだけは、回避されるのであった。

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