第49話 幽霊屋敷★

最初は幼い体と見慣れていないため奇異な目で見られていたメイリーだったが、王都で何度か依頼をこなしたことにより、そんな視線を向けられることも無くなった。

 逆に幼いながら依頼をこなしまくるその姿を見て、他の冒険者からパーティーメンバーとして誘われることも増えてきていた。


 しかし、今のところ1人で特に困っていないメイリーは、勧誘については一切断っているのてあった。

 そんな日々を過ごしていると、ある日、メイリーの担当受付嬢になってくれているレレナから、依頼を斡旋される。


「えーと、幽霊屋敷の探索ですか?」

「そうなの。死霊系の魔物が出ると考えられるんだけど、死霊系って戦闘職には天敵だし、低ランクの冒険者だと倒せたとしても威力の調節が甘いんですよね。今回は屋敷だからそれだと困りますし」

「そうですか。でも何で私に?そういうことならもっと高位の冒険者さんたちに頼めばいいのでは?」


 当然の疑問を口にするメイリー、しかしそれは想定済みだったのかレレナは少し申し訳なさそうな表情をする。


「えーと、ですね。この依頼の報酬がですね。この幽霊屋敷の格安で買う権利、何ですよ。冒険者組合の制度として依頼の難易度と報酬を加味して依頼のランクを制定するんですけど、」

「報酬が少ないせいで、高ランクの冒険者が受けてくれそうも無いってことですか。」

「そのー…まあ。でもメイリーさん。今は宿暮らしでしたけど、持ち家を買いたいって言ってましたよね?」


そう言われたメイリーは、誰が幽霊屋敷を買いたいって言ったよ、という目をレレナに向ける。


「小さい頃からコツコツ貯めた金があるので、普通に屋敷を買えるだけの蓄えは用意しています」

「ええ!そうなの。…じゃ、じゃあ?」

「いえ、受けさせて貰いますよ。面白そうですし。ファンタジーの定番です。」

「ほ、本当ですか?ありがとうございました。直ぐに手続きしますね」

(やっぱり不良債権押し付けられた感じは拭えないけど。面白そう。あれ?でも私、死霊系に通用する魔法、何か覚えてたっけ?)


  多分、幽霊屋敷って噂ついちゃったら売れないから、冒険者に依頼と称して売り付けちゃおうという魂胆なのだろう。

 それはいいがメイリーは自身が使える魔法が幽霊に通用するのか一抹の不安がよぎるのであった。



依頼を受けて直ぐに屋敷に行ってみると、幽霊屋敷と言うにはかなりしっかりとした造りであった。これが格安で手に入るなら良い依頼かもしれない。


「それでは私はこれで。えーと、鍵は渡しておきます。依頼が失敗したとしてもこの鍵は返してくださいね。それでは」

「はぁ。ってまっ、行っちゃったな」


極力、この屋敷に近づきたく無いのか、この屋敷を管理する不動産の者は、簡単な説明と鍵を渡したら、さっさと帰っていってしまった。


「まあいいや。それじゃあ。早速乗り込むとしようか」


 とは言えそこまで嫌がっていながら、それでもここまで説明のために同行してくれたのだろう。


 メイリーが幽霊屋敷の鍵を開けて、扉に手をかける。その瞬間何処からともなく声が聞こえてくる。


「かえれ、ここからたちされ」


不気味な声が脳内に直接聴こえてくる。


「念話?魔法じゃないよね。」


 この世界には電話やスピーカーは存在しないが、魔法で、遠くに声を届かせる事が出来る。

 しかし、そう言った音系魔法の中でも異質なのが『念話』である。

 脳内に直接話しかけるとだけという、効果は対した事の無いのに、魔法の難易度はバカ高いアンバランスな魔法である。

 そんな魔法を使える存在。しかも人間の言葉を使える知的生命体がいるということである。


「まあ、お化けも妖怪も物の怪も、謎に日本語ペラペラだしな」


 とは言え、今のところ、声が聴こえるだけで害は無いので、そう言ったことは、気にせず屋敷内に入っていくのだった。


幽霊屋敷に何かが住んでいることは確定したが、今のところメイリーに害はないため、構わず進んでいく。

 帰れだの立ち去れだのと脳内に直接語りかけてくる何か。しかしメイリーが気にせず進んでいくのを感じたのか次第にに話しかけてこなくなった。


(出ていけとか立ち去れってことはこの場所を自分の住み処にしてるだけで、大した害は無いのかもな。まあ不動産屋さんにとっては害あるけど。)


 この幽霊は呪詛を吐く感じでも無かった。

 どちらかと言うと侵入者に怯えている様にも見受けられる。好奇心を刺激されたメイリー。このまましらみ潰しに探してもいいのだが、面倒なので空間把握魔法で屋敷の中がどんな状況かを、即座に把握する。


(あれ?この屋敷って地下室があったんだ。知らなかったな。そして地下室に魔力の反応ありっと。)


  空間把握を使ったから地下室の存在に気が付いたが、普通に探していたら見つかっていたかわからない。それほど迄に精巧に隠された地下室である。

 メイリーは説明不足の依頼主に不満を抱きつつ、地下室へ行くための隠し階段への扉を開ける。すると幽霊の声が再度語りかけてくる。


「かえって。かえってよ。」


 先程よりも幼く、懇願するような声色。魔力反応の方向に進めば進むほどその声は大きくなっていった。


(うるさい。『念話』の構造なんて理解してないから、上手く防げないな。でもうるさいだけだが)


 うるさいにはうるさいのだが、やはり死霊系の魔物のような呪いによって此方を害してくるような感じはしない。

 そのため我慢して進んでいくメイリー。

 そしてついに声の主の所まで到達する。するとそこに居たのはメイリーより小さな幼子たちであった。


「かえって。」

「かえってよ。」

「おねがい。」

「ぼくたちは、ここをまもらなきゃいけないの。」

「ってちゃんとしゃべれるのか。守る?」


幽霊たちは念話のような手段以外にもしっかりと会話が可能であった。


「そうだよ。」

「そうなの?」

「そうだったんだ。」

「はぁ。取り敢えず説明してください。」


 目の前に来ても害は無さそうな彼女たちに毒気を抜かれたメイリーは、説明を求める。

 彼女たちの要領の得ない説明によって無駄に時間を取られたが、メイリーはおおよその事情を察した。

 つまり、彼らは住居人の手伝いをしながら住居人の魔力を貰って活動していたが、それを気味悪がった前住居人の孫が彼らを地下室に閉じ込めてしまったので、今度は彼らが孫たちを追い出そうと色々とやったのだという。

しかし追い出しても追い出しても人が入ってくるため、頑張っていたら魔力が尽きてきて、今では、語りかけるくらいしか出来なくなっていたのだそうだ。


(ということは、ここは近年幽霊屋敷になった訳じゃ無くて、元々幽霊屋敷だったって訳か。まあこいつらは幽霊と言うか、シルキーみたいな感じか。でもそれなら家事とか手伝ってくれるんだよな。)


「これからここに私が住む予定何だけど、家事とか手伝ってくれる?」

「いいの?」

「いいよ」

「わーい」

「やったー!」

「やったー?」

「そうなの」


 メイリーの提案に、幽霊改め、シルキーたちは喜んでくれるのだった。

 その後、依頼主の不動産屋さん、来て貰い幽霊を退治したことを確認してもらったメイリー。

 幽霊の正体であるシルキーは健在なのだが、シルキーたちには『念話』以外に、住居人とその人に認められた1人以外から姿を隠す『不可視』スキルが備わっていたため、隠れて貰っていた。


依頼人は確認を終え、依頼書にサインを貰い依頼達成となった。


 こうして、メイリーは王都での拠点として、庭付き一戸建て、シルキー付きの優良物件を手に入れたのであった。 





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