第47話 新規事業の失敗 ★

王都の冒険者組合でレレナに再会し依頼を幾つか斡旋してもらった後、メイリーたちを運んでくれた馬車と御者の護衛として一度ステンド領に戻ることになった。

 行ったり来たりで大変に思えるが、行きで既に、ステンド領から王都までのマッピングが完了しているメイリーにとって帰りは、単なる空間魔法の修行の場でしかなかった。

護衛の観点からも移動時間は早い方が良く、メイリーが全魔法を解禁しフルサポートしたお陰もあり、通常なら早くとも数日、休憩などの兼ね合いもあると1週間程度掛かる筈の道のりを、僅か半日足らずで、到着してしまうのであった。


「やはりメイリー様のお陰もあり、魔獣の出現率も大分減りましたね」

「そうですね。まあ、まだどうなるかわかりませんが。それでは私はこれで。」

「はい。ありがとうございました。」


依頼を完了させたメイリーは、ちょっとした事情から本来近づき難いのたが、姉であるリリーの様子も気になるので実家に戻ることた。


「メイリー様だ。メイリー様が帰って来てくれたぞ」

「おお、メイリー様。おかえりなさいませ」

「皆さん。ただいま戻りました」


実家を出ていったメイリーが帰ってくると歓迎される。

 これもメイリーがここに近づきたくない理由の一つであった。それに我慢しつつ、リリーの部屋に行くメイリー。

 リリーは現在12歳となり、実家で『真実の眼』を使ってお手伝いをしつつ、今は街のパン屋で働いていた。

 元々、料理好きだったようでそれを生かしつつ、家柄上、多少学んでいた経営を生かせる飲食店の道に進んだそうだ。


「私もメイリーも自立したことになるわね。まあ私はまだ見習いだけど。はぁー。それなのにライル兄さんは」

「それは、まあ私が邪魔しちゃった形になるんだけど…」

「着眼点は良かったのよ。でもお父さんたちの静止を振り切ってやった事業が失敗しちゃったんだもの」


ステンド領では冒険者稼業があまり盛んではない。それは近くに迷宮も無く魔獣も小型が少量しか出現しないためである。

 そのためあまり冒険者をターゲットにした店が少なかった。

 しかしそこに来て魔獣増加の一報である。初期は急激な変化で冒険者も増加しなかったが、魔獣の急激な増加が収まり安定期に入ってきた。

 そのためこれから冒険者が増加するだろうと予想したライルは、冒険者向けの事業を展開しようと考えたのだ。

 魔獣増加によって生じた不利益を新事業で取り返そうと考えた訳だった。


「でもそうなってるのは家だけじゃ無かったから安定したなら普通にやってれば元のようになれるってのがお父さんたちの考えだったのに。それにメイリーのお陰で領主様との太いパイプも出来てたんだし」

「まあ、私のお陰でって言うのも悪かったんだと思う。でも魔獣が減ってきちゃったから。」


 そう。メイリーの雷虎討伐によって生活圏を脅かされステンド領付近まで降りてきていた魔獣は、徐々にだが元の場所に戻っていっている。もうあと数年も経てば、元の平和な領地に戻るだろう。

 そのため新事業にかかった費用を回収することは出来そうにない。

 更に都合の悪いことに、この失敗を従業員たちはかなり問題視してしまった。

 そしてメイリー、またはリリーに跡継ぎを、と言う案が、前よりも強めに燃えてしてしまっていたのだった。


「私は直ぐに帰りますけど、リリー姉さんは気をつけて下さい」

「うん。メイリーも元気で」


2人が願うのはライルの成功。そして自身の平穏なのである。

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