第17話 はじめてのおつかい 前★

  メイリーがこの世界に転生して、およそ3年の年月が経過した。

 当初、メイリーが予定していた攻撃魔法の習得は順調であり、世界を旅するのに便利な『空間魔法』や『創世魔法』も徐々にだが形になってきていた。

 そんな順風満帆な転生生活を享受しているメイリーは、領主のティーチからとある依頼を頼まれた。


「隣街に荷物を輸送ですか?」

「そうだ。我が街の特産品である鉄鉱石と隣街の農作物を交換することになっているのだが、今回は量が多くてな。馬車を増やすことも考えたのだが…」

「私を使った方が安上がりだからそうしようと言うことですか」

「まあ、端的に言えばそうなるな。君の魔法なら馬車の荷物を軽くすることも、馬車の移動速度を速くすることも可能なのだろう?」

「そうですね」


  馬車を増やすとなるとその分、費用がかかる。御者だけで無く護衛も増やす必要があるし、食費もかかる。

 その費用を払うよりもメイリー1人を雇った方が明らかに安上がりではある。


(こいつは私のことをボランティアか何かだと勘違いしてるんだろう)

「不満そうだね。この程度、君には造作も無いだろう?」

「そんなことは無いですが…それで報酬は?」

「勿論、悪くない額を用意しよう。」

「そうですか。それで報酬は?」


 メイリーは再度聞き返す。メイリーは知っている。報酬として幾ら莫大な金銭が与えられようと、それはメイリーの実家に入るお金である。

 未成年者どころかまだ幼児と言えるメイリーの元に入るお金は無い。

   

「ふふ、やはり君は面白いね。テイルがあれほど懐くのも頷けると言うものだ。そうだね。確か君は将来、魔獣狩り、いやいや冒険者になりたいんだよね。そのライセンスをあげよう。貴族紋の入った特別製をね」

「ありがたく、受けさせていただきます。」

「ふふ、それじゃあ頼んだよ。」


 メイリーはティーチが掲げた餌に直ぐ様飛びついてしまうが、これは仕方ない事である。

 冒険者は色々な仕事をするが、ランクが上がれば仕事の多くが戦闘に関係するものになってくる。

 そのため、冒険者ライセンスを取得する条件に、戦闘系のスキルか組合が認めたスキルの所持、もしくは戦闘を行えると言う証明に値する功績が必要である。

 今のところメイリーは、そのどちらも持ってはいない。もし、5歳になりスキル授与でそれらのスキルが手に入らなかった場合、冒険者ライセンスを手に入れられる可能性はぐっと下がってしまう。


 そんな中、もう1つライセンスを取得する方法がある。それが貴族や王族、組合の役員たちの保証が付いている場合である。

 この場合、戦闘能力云々と言った条件が全て免除され、誰でも冒険者ライセンスを取得することが出来る。しかしその場合そのライセンスが有効なのはその保証人の管轄地域のみである。

 そして、その制限を取っ払い、どの地域でも冒険者として活動できるための更に上位の保証が、ティーチが報酬として提案した『貴族紋』なのである。

 これがあれば自由に冒険者家業が出来るとなれば、メイリーとしては受けるしか無いのであった。



 依頼を受けたメイリーは、ティーチの秘書官から指定された場所に到着する。

 そこには大量の荷物と馬車。それに馬と御者さん。そして護衛の騎士が立っていた。


「おはようございます。護衛はガンルーさんしかまだ来ていないのですか? 他の人は?」

「うん? おはようさん。お館様から聞いてないのか。護衛は俺とお前だけだそうだ。」

「は? …あの領主さんめ。一杯食わされたな」

「ふはは、まあいいじゃねーか。隣街までなら俺とお前さんがいれば十分だろう。なぁケムト。」

「はいはい。そうですね。ガンルーさんより強いメイリーさんがいるなら、っと何でもありませんよう旦那。そんなに睨まないでくだせい」

「睨んでいないが?」

「じゃあ単に顔が怖いですぜ…まあ冗談はさておきっと、メイリーさん。荷物を馬車に積むのを手伝って下さいな」

「わかりました。」

 

 領主からの依頼は、運送係だけだと思っていたが、護衛も兼ねているようであった。 


(冒険者になったらこう言う依頼人も沢山いるだろうからな。良い勉強になったと思っておこう)


 メイリーはそう自分を納得させるのであった。

  

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