第18話 はじめてのおつかい 後★

「いやー、メイリーさんがいるだけで、ここまで早くなるものなんですね」


 御者のケムトは驚きつつも称賛の声をあげるが、それもその筈であった。

 メイリーは、馬車の荷台に重力軽減の魔法を、馬には定期的に疲労回復の魔法を掛けながら、周囲の警戒までこなしていた。

 そのため一行は予定よりもかなり早くスピードで進んでいた。

  

(予定よりも早いのは良いことだと思うけど、それにしても、リスクを取りすぎているように感じるな。人数を減らして速さを取る理由でもあるのかな?)


 この馬車は積んでいる荷物は、メイリーたちの街の特産品であり、隣街との交易する上で大切な品物である筈なのに、それに比べて護衛の数が圧倒的に少ない。

 と言うかメイリーとガンルーの2人だけしかいない。メイリーは、知らない人から見れば単なる3歳児であるため、ガンルー1人で馬車と荷物と幼子を守っているようにも見える。


「それで、どうなんですか?」

「何がだ?」

「いくら領主さんがケチでも大事な荷物を運ぶのに最少人数すぎますよ。普通に考えてあり得ないですよね?」

「…流石にわかるか。まあここまで来たら隠しても意味ないか。簡単に言えば、ステンド領と今から行く隣のライム領の間に中型魔獣の旋風狼が出没したらしいんだ。奴らは大人数で移動する相手に敏感に反応する習性があるらしい。だから大人数でなく、尚かつ少数精鋭で迅速に移動したかった。その人員としてメイリー、お前は最適だったと言うわけだ」

「…言ってくれれば、此方から率先して参加しましたのに」

「…出発前に言えば、旋風狼に向かっていきそうな危うさがあるからな」

「人を戦闘狂みたいに…まあ、これでライセンスの謎は解けました」


 『貴族紋』は例え貴族と言えど、そう簡単に発行できるモノでも無い。それを、ただの運搬係をこなして受け取るでは、釣り合いがとれていないと感じてはいた。 


(危険度に、黙っていた後ろめたさをプラスすれば、まあトントンだろうか? 折角なら一目見てみたいが…)

「まあこのペースなら遭遇しないで通り抜けられるだろ」


 戦闘狂であるメイリーがそんな事を考えていると、調度良く、ガンルーがフラグを立ててくれる。


「ああ、ガンルーさん。駄目だよ。そう言うのはフラグが立つって言うんだよ。多分もうすぐ、ほら来た」

「なにっ!」

「ガルルルルッルル」


 メイリーが望み、ガンルーが恐れていた事態が発生した。森の奥から猛獣の叫び声とともに近づいてくる大きな影。中型魔獣の旋風狼であった。


「ほ、本当に出やがった。ケムト、逃走は?」

「無理無理、どんなに荷物を軽くしても、馬と旋風狼じゃ個体の性能差が段違いさ。」

「やるしか無いでしょ。『風刃よ、切り裂け』」


 先手必勝。メイリーが風刃を放つ。しかし風刃は旋風狼に到達する前に何かに阻まれたかのように消失する。


「あれは、風楯?」

「旋風狼は攻防一体の風魔法を使ってくる。メイリー。アイツの魔法から馬車を守れるか?」

「さあ? 相手によるよ」

「ならアイツを倒せるか?」

「うーん…彼処に5秒間留めておいてくれたら?」

「ふ、上等だぜ!」


 メイリーが提示した条件を聞いた瞬間、ガンルーは駆け出した。

 ガンルーの接近に気が付いた旋風狼は、迎え撃とうとするが、それをさせまいとガンルーが先手を取る。


「はぁー!『飛斬』『飛斬』『飛斬』」


 ガンルーの授けられたスキルの1つ『飛斬』、これは飛ぶ斬撃。

 言ってしまえば先ほどメイリーが使用した、風刃と類似したスキルである。

 しかしこのスキルは発動速度と威力は風刃を遙かに上回るそれは、魔法の使えない騎士にとって貴重な遠距離攻撃であった。


 ただ、強スキルであるため、身体に掛かる反動も大きい。


「グルル、ガルルルル」

「くっ、そ、限界かよ、これで最後だ!『飛斬』」


 旋風狼は、ガンルーの『飛斬』を受けても身体に纏う旋風により無傷であった。しかし防御に専念していたためその場に釘付けにする事には成功した。

 しかし、その反動で、身体がボロボロになってしまったガンルーはもう動けない。

 

「後は頼むぞ」

「はい。『覆え、風障壁』『絡みつけ、土枷』」


 ガンルーが釘付けにした時間を使い、メイリーは、座標を定め、2つの魔法を行使する。

 風障壁で旋風狼の攻撃を防ぎ、土枷で旋風狼をその場に拘束する。

 しかし黙ってやられるほど大人しくない旋風狼の旋風は、メイリー渾身の風障壁を軋ませ、土枷もボロボロになっていく。


「やっぱりこの程度じゃ駄目か。なら『切り開け、土道』『湧け、水道』」


 その程度の魔法で完封できるとは考えていないメイリーは、更に続けて魔法を発動する。

 メイリーから旋風狼までの間に土の道が掘られ、その道に水を流し込む。

 その道の先にいた旋風狼は、流し込まれた水を被りびしょびしょとなる。


「えっ?え?メイリーさん。何を?」

「見てればわかる。『雷鳴よ、轟け』」

「ガッ!ガッルーー!」


 メイリーは水の道に向かって雷撃の魔法を放つ。

 すると水の道を通った雷が旋風狼を感電させる。感電の衝撃は凄まじく、流石の旋風狼も気絶してしまうのであった。


 気絶し、旋風を纏わなくなった旋風狼は、少し大きいだけの獣である。後の処理は簡単であった。


 どうにか旋風狼を倒した一行は、ガンルーの回復を待ってからライム領にある目的他の街に向かう事となった。

 街に到着すると、ガンルーが背負った旋風狼を見てライムの住人たちは驚愕し、その後、次々に感謝の言葉を述べていく。

 旋風狼出没の噂が広まった結果、行商人等の人が来なくなっており、ほとほと困っていた所であったそうである。


 更に、輸送の隊列が騎士が1人、御者が1人幼子が1人という編成だったこともあり、皆が旋風狼はガンルー1人で討伐したと勘違いした。そのため、ガンルーの名前は近隣の街や村に響き渡ることとなるのであった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る