第19話 鈍感力☆★
ファンタジーゲームの醍醐味であるモンスターの討伐を終えた芽依。
「ファンタジーらしくなってきた。嬉しいんだがちょっと怖いな。」
転生後の自分が初めて魔獣を討伐した。それは嬉しいことなのだが、些かメイリーは、芽衣よりも好戦的過ぎる。
今回は旋風狼に攻撃する隙を与えなかったため、被害がガンルーの自損のみであったが、雷撃が通用しなければ、負けていた可能性が高い。魔法技術等に比べれば年相応なフィジカルを持つメイリーは、一般的な魔獣の攻撃すら致命傷になりかねない。
旋風狼の攻撃など、その余波で吹き飛んでしまうだろう。
そう言うことをメイリーは理解した上で、戦闘に挑んでいる事が分かっているだけに、芽依は怖さを感じるのである。
「まあ価値観の違いなんだろうけど。心臓に悪いな」
「何が?」
芽衣が転生先の自分について考えていると、後ろから凛が話し掛けてくる。
「いや、まあ色々と」
「そっか。来週末は、いよいよ『魔法演舞』の予選だもんね。あっ、それで例年、予選で行われやすい魔法競技の一覧と、それのルールとか色々書いてある資料、作ってきたよ」
「ああ。本当に作ってきてくれたんだ。ありがとう」
学生が出場する魔法競技の中でも最大の規模を誇る大会である『魔法演舞』。この大会が大好きな凛は、自分の友人が出場する事に歓喜し、色々と張り切ってくれている。
魔法競技自体にあまり興味の無い芽衣を見かね、「今度は私が教えてあげる」と言い資料を作ってくれることになっていたのだ。
「うん。て言ってもこれ殆どお母さん作だけどね。お母さんに芽衣が『魔法演舞』に出るって話したらもう舞い上がっちゃって。張り切って作ってたよ。で、その後お母さん。「あんたももう少し頑張りなさいよ」だって。もう一言多いんだよ!」
凛の憤慨している光景が目に浮かぶようである。それが微笑ましくて笑ってしまう。
「ふふ、そうか」
「そうだよ。ってあ、ごめん。」
「ん?…ああ、別に気にしなくていい。母さんが死んだときは流石に悲しかったが、義母さんについては特に思うところも無いからな」
「そっか」
凛は芽衣の事情を知る数少ない人物であるのだが、性格上、デリカシーに欠ける場面が散見される。
とは言え、芽衣も友人に気を遣われる方が鬱陶しいので、凛くらいが丁度良かったりする。
「兎に角、予選会頑張ってね。私は応援に行くから。お母さんも職場のテレビで応援するって言ってた。」
「そうか。ありがとう。頑張らせてもらうよ。」
芽衣と凛は、性格はかなり違うが、比較的良い友人関係を築けているのである。
――――――――――――――――
ステンド家の屋敷でテイルに魔法を教えているメイリー。
メイリーはかなり真面目に魔法理論の説明をしているのだが、今日のテイルは集中力に欠ける。何故か分からないがそわそわしている様子であった。
最初はスルーしてたが、流石に長い。
「テイル様、何でしょうか?」
「え、いや、何がだ?」
「いえ、そわそわしているみたいなので。それにさっきから私を窺うようにチラチラ見ていますし。集中して下さい」
そんなことを言われたテイルは顔を赤くしながら反論する。
「そ、そんなに見ていないぞ。」
「そうですか? ですが集中力に欠けるのは間違いなさそうです。どうなさいましたか?」
メイリーは、小さな体をテイルに近づけ、顔を覗き込む。すると、テイルの顔はさらに紅潮する。
「え、あ、その…」
「なんですか?」
「こ、この前の旋風狼の討伐の報酬で冒険者ライセンスを取得したのだろう。」
「ええ、それが?」
「だから僕の魔法の講師も…」
「ああ、そういう事でしたか。止めませんよ。まだ。ティーチ様より今貴族紋を持って活躍すると、折角のテイル様やガンルーの名声が薄まるという判断で、本格的に活動するのは5歳を過ぎてからになりました」
「そ、そうか。」
テイルは明らかにほっとした表情を見せる。
メイリーとしても、中途半端に講師の仕事を投げ出すつもりは無かったが、彼女は魔法教育の専門家では無い。
メイリーの教えもあり、テイルは『神童』と呼ばれるほど、年齢不相応な卓越した魔法能力を持つに成長したが、メイリーは、学院で本格的に魔法を習うまでの繋ぎであり、そもそもティーチはメイリーを本気で魔法講師として採用したのではなく、テイルが魔法を勉強する切欠になればと思っていただけであった。
(別にテイルくらい魔法が上達したら後は独学でも学べると思うのだけど? まあ、いきなり講師が変わるのは嫌か)
「それでは、悩み事も解決したところで、集中して下さいね?」
「わかった」
メイリーは、テイルが環境の変化に怯えていただけであると判断するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます