第20話 優しい認定★
メイリーはティーチより、ステンド家の屋敷を自由に歩き回ってい良い許可が下りている。
ただ、ティーチの執務室等の立ち入り禁止の部屋も存在し、そもそも興味の無い部屋をうろちょろする趣味も無いため、この屋敷に住んでいる人たちの中には、会ったことの無い人も大勢いる。
今、メイリーの目の前にいる女性もその1人であった。
「初めまして。メイリーちゃんよね。主人やテイルから話はいつも聞いているわ。ステンド・マリアです。よろしくね」
「こちらこそ。マリア様」
「いいのよそんなに畏まらなくて。本当ならテイルのスキル授与の時にお礼に行かなくてはって思っていたのにそれも出来なかったんだもの」
「いえいえ、わたしにお礼なんて不要です。依頼としてやらせていただいたに過ぎませんから」
「ふふ、ありがとう。主人たちから聞いていた通りなのね」
そう言って笑顔になるマリア。その後ろで控えていた侍女がマリアに話し掛ける。
「マリア様」
「あ、そうだったわね。メイリーちゃん。私の侍女のアリスも貴女にお礼を言いたいらしいわ。」
「はい? …どこかでお会いしましたでしょうか?」
「いえ、初めましてでございます。マリア様の侍女長を務めさせていただいております。アリスで御座います」
出来る女と言う雰囲気を醸し出す女性。
メイリーは全く面識が無いので何故この女性からお礼を言われるのか見当がつかない。
「お礼と言うのは私の夫の事で御座います。」
「夫?アリスさんのですか?」
「はい。私の夫、ガンルーの事です。この度は、旋風狼の襲撃から、夫を守って下さり、本当にありがとう御座いました」
そう言い、アリスは深々と頭を下げる。
しかしメイリーとしてはお礼など耳に入ってこなかった。驚愕の事実であるが、あのガンルーにこんな美人な妻がいたのだ。
(よく考えればあの人、この領地の筆頭騎士だったな。なんとなく小物臭がしていたからか、忘れていたな)
ふと冷静になったメイリーが、大分失礼なことを考えていると、もう一度、アリスが頭を下げる。
「えっと」
「それと夫がメイリー様の功績を奪ってしまったこと、深くお詫び申し上げます」
謝罪。それはティーチやガンルーから何度もされた事であった。
メイリーが討伐した旋風狼は、ここら辺の田舎では大規模な討伐隊を組むほどの大事である。そんな旋風狼を1人で倒したと言う名声は、周辺地域からステンド領が一目置かれるのに十分な功績であった。
逆に筆頭騎士では無く、スキル授与も済んでいない幼児が代わりに討伐したとなれば、インチキを疑われるだろう。折角高まった名声は反転してしまう危険性もある。
そのため討伐者はガンルーのみと報告したのだった。
「ああ、そのことですか? アレなら、もう散々謝られたのでいいですよ。報酬も貰ってますし。それに、ガンルーさんの足止めがなかったら討伐出来てなかったでしょうし」
「し、しかし。」
「むしろ、無駄に目立たなくて私としてはありがたいですよ。それに私は将来、冒険者になりますから、あの程度の魔獣これから何頭も倒します。1匹くらい減っても問題ありません」
「そうですか。夫から聞いた通りの、ふふふ」
「本当ね。メイリーちゃんはとっても優しいのね」
アリスが笑い出す。するとマリアもつられるように笑みを浮かべる。
メイリーとしては本気で言っているつもりだが、マリアたちは、メイリーが自分たちを気遣ってそんな事を言っていると捉えられたようで、2人から優しい認定されるメイリーであった。
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