第9話 領主の息子★
街一番の商会と街の領主、どちらが権力を持っているかと言えば勿論領主である。
しかし商会の規模が大きくなってくると度々この力関係が逆転することがある。特に公共資源が乏しい街などでは顕著である。その分領主の権限が及ぶ場所が少ないという事であるからである。他にも例はあるがこの場合、メイリーの両親の商会がどうかという事である。
力関係が上ならば、この依頼を受けるも受けないも自由である。メリットがあれば受けるし、無ければ断れる。
力関係が微妙ならばあまり受けるべきでは無い。領主の息子が良スキルを手に入れてしまえば均衡が破られる可能性が出てくる。
そして残念ながらこの商会と領主の関係は領主が圧倒的に上である。そのためメリットが有ろうが無かろうが、断ることは許されないのであった。
(まあ、商会にとっては領主とコネクションを取るまたとないチャンスではある。デメリットとして失敗した時、1歳の娘がやったことだからで済むとは思えないところか? この世界ではスキルの重要度はかなり高いみたいだし)
メイリーにとって、夢のファンタジーライフを送るためには領主に目を付けられるのは好ましくない気がする。
それは成功しようが失敗しようが同じだ。しかし商会としては、領主からの依頼を受けない訳にはいかない状況である。そこに術者のメイリーの意向が反映される隙間は無い。
「かくごを、きめるしか、ないか。」
メイリーはなるようになる精神で臨む事に決めるのであった。
――――――――――――――――――
領主の屋敷へは、父親とメイリー、あとは数名の使用人のみで訪れた。
領主の屋敷と言ってもメイリーがいつも暮らしている屋敷とそこまでの差を感じない。
ただ歴史というか貫禄は感じる建物に、使用人たちは圧倒されている様子であった。
通された部屋で少しの時間待機していると、一人の男性が男の子を連れて部屋の中に入ってきた。
どちらも端整な顔立ちをしていて、男の子には男性の面影があった。
「これはこれはステンド様。この度はご子息様の『豊穣の儀』おめでとうございます。」
「久しいなラカン。堅苦しい挨拶はよい。それに我のことはティーチでよいと言っておろう。それよりも本題だが、その者がお主の娘か。噂にもなっていることだが、中々に信じがたいな。幼すぎる。それにスキル授与に有用な魔法など聞いたことも無かったが?」
領主のティーチ・ステンドがメイリーを見定めるようにじっと見てくる。
(前世の魔法とは流石に言えないからな、さて)
別に魔法の効果について解説するのは構わないのだが、どこで習ったモノなのか等を詳細に聞かれれば、両親にも明かしていないメイリー秘密に触れることになる。
そのためどう返答するか迷っていると、父はフォローを入れる。
「ティーチ様。魔法の詮索はご遠慮ください。それにメイリーが魔法を使った事実は幾つもの証言がございますが?」
「…まあそうだな。流れてきた噂が全て虚偽だとは私も考えていないさ。だが息子のスキルが関係しているのだ。なぁ、ラカンの娘、メイリーよ」
「はい。そうでございますね…『灯りよ』」
領主からの目配せの意味を察したメイリーは、魔法で灯りをつける。
自身の意図を汲み取り、実際に魔法まで行使したメイリーに、領主は満足げに頷く。
「はは、疑ったことは謝罪しよう。それでは早速頼むか?」
そしてメイリーに幸運の魔法の使用を要求した。しかしメイリーはひと呼吸おいて首を横に振る。
「領主様、は、効果の高い魔法、を御所望とのこと、なので、出来るだけ小部屋でご子息様、と二人っきりで魔法を、かけることは可能でしょうか?」
「ほう。…それに何の意味がある?」
「上昇する運気の質が、高まり、ます。」
「そうかわかった。おい、用意しろ。」
領主はメイリーの要求を受け入れ、すぐに部屋の用意がされた。
領主の息子と二人っきりとなるメイリー。すると今までずっと口をつぐんでいた領主の息子が弱々しくメイリーに尋ねてくる。
「ほ、本当に僕は良いスキルが授けられるのか?」
「さあ?それは神のみぞ知ることです」
「そ、それでは困るのだ」
「分かっております。全力は尽くします。えーと、ご子息様」
「僕の名前はテイルだ。覚えてないのだろう?」
「いえいえ、テイル様。しっかりと覚えておりました」
「ふふ、お前面白いやつだな。父上の前では猫を被っておったのか?」
「さて、何のことやら。それよりそろそろ魔法をかけさせていただきます。リラックスしているようなので、運気上昇のみ行わせていただきます。」
貴族と仲良くなる気は無いメイリーは、話を切り替える。唱えるのは現在使える最上位の魔法、占星術に類するモノである。
「『占星に導かれ、かの者に、福音あれ』」
淡い光に包まれ気持ち良さそうな顔をするテイル。やはり前世の時よりも効果が上昇しているのかもしれない。少なくとも前世でこれを使ったとして、そんな表情を浮かべる者はいない。
取り敢えず、仕事を終えた。元の部屋に戻ると安らかな表情を浮かべた息子を見てティーチはほっとした様子であった。
仕方ない事だが、5歳で人生が決まると言うことは、かなり残酷な世界であり、それに親も子も対応出来ていないのである。
メイリーは早く家に帰り、魔法の練習でもしていたかったのだご、ティーチはテイルの授かるスキル次第で報酬を渡すと言い、次の日も来るように命じてきたので次の日も領主の屋敷に行かなくてはならなくなった。
そして次の日、昨日のように領主の屋敷に訪れ、同じ部屋で待っていると、今日はティーチのみが入ってきた。ティーチは昨日とはうって変わり真面目な表情でメイリーを見つめていた。
「ティーチ様。もしかしてテイル様のスキルに満足なさらなかったのですか?」
ラカンが恐る恐る聞くとティーチはひと呼吸置いてから喋り出す。
「逆だ。テイルの授かったスキルは二つ。『統率』と『毒無効』であった。これは次期領主として最高に近いスキルである。ラカン。そしてメイリー。お前たちには心から礼を言いたい。」
そう言ってティーチは頭を下げるのだった。
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