第15話 二度の対戦☆

 選考会当日、16人の生徒たちが教室にに集められた。

 芽衣がやる気満々の生徒たちに混じって居心地悪そうにしていると、教師陣が入ってくる。


「こんにちは。今日は我が校の『魔法演舞』の代表選手に選ばれるべく、存分に競い合ってもらいたい。去年の代表である桜宮は2年生ながら本選出場という華々しい結果を出してくれたからな。皆も選ばれるように頑張ってくれ」

「それでは、ルール説明をします。今回は2名まで選出することになっているので、AとBに8名ずつに別れてトーナメント形式で模擬戦闘を行い、各トーナメントの優勝者を我が校の代表にする。何か疑問はあるか?」


 教師がそう言うと、3年のある生徒が桜宮を見ながら恐る恐る手を挙げる。


「トーナメント形式だと組み合わせ次第で不公平になるんじゃ無いですか?」

「そ、そうです。言っちゃ何ですが我が校で桜宮の実力は突出してます。桜宮のグループに入ったら…」

「そこは我慢してくれとしか言えない。こちらとしてもそこら辺は配慮しているつもりだ」

「そうですか」


 そう言うと教師は、全員にトーナメント表を配った。そこに記された組み合わせは、確かに教師の言う通り配慮が行き届いていた。


(Aグループのメンバー8名中、7名が3年生。しかも確か凛が言ってた成績上位者ばっか。それで、Bグループで知ってるのは先ほど言われてた桜宮先輩か。あからさまだな。こんなのやるくらいなら、桜宮先輩だけ勝ち抜きとかにすればいいのに)


 教師陣も桜宮が強いことは分かった上で、2枠目を成績上位者で競わせる目論みなのだろう。配慮と言うか贔屓に近いが、2年生ながら地区予選を突破した実力者を万が一にも選考漏れさせる訳にはいかないが、選考会免除も公平性云々が理由で出来なかったちめの苦肉の策なのだろう。

 そして面倒なことによ、芽衣の最初の相手がその桜宮であった。


(勝っても負けても面倒そうだな)



 仮想戦闘空間に移動した芽依たち。


「Bグループ1回戦第1試合、桜宮美雪対鹿島芽衣の試合を行います。」


 そんなアナウンスが聞こえてくる中、両者が向かい合っていると、桜宮が芽衣を可哀想な者を見る目で見てくる。


「どうかされましたか、桜宮先輩?」

「いえね。こんな選考会なんて最初っからやらなければ貴方たちも叶わない幻想なんて見なくてすんだのにとね。まあ貴方は1年生だから来年再来年頑張りなさい」

「まあ、そうですね。これで負けでもしたら桜宮先輩赤っ恥ですもんね」

「なっ!…ふふ、まあそうね。あり得ないけどね」

(意外に煽りに弱いな。まあ自信家な人らしいしな)


 「それでは開始してください」


 戦闘スタートの合図が出される。

 模擬戦闘の基本ルールとして魔法以外でのダメージは加算されないと言うのがある。殴る蹴る等と言った物理攻撃は無効となる。

 そのため移動しながらの魔法行使に慣れていない学生は特に、遠距離からの魔法の撃ち合いになる傾向が高い。


「『風精よ、我が願いに従い』」


 桜宮は、定石通り魔法発動に入る。発動速度に自信のある桜宮にとって模擬戦闘は有利すぎる競技なのだ。

 しかし、自分が定石通り動いたからと言って相手も定石通り動くとは限らない。


『前へ、加速せよ。』


 芽衣は定石を無視して突進してくる。そんな芽衣に桜宮は内心嘲う。


(魔法戦闘において距離など無意味である。まあ、1年生の授業じゃまだそんなことは教わらないわよね!)


「『閃光よ』」

「なっ、しまっ!」


 しかし芽衣は突進しつつ魔法を行使出来る。予想外の事態に思わず詠唱を止めてしまう桜宮。

 しかも突然の閃光で視覚まで奪われ、隙だらけになってしまう。


「『魔弾の射手よ、複数連射』」

「ちょっと待ちなさい。」


 その隙に後ろに回り込んだ芽衣は魔弾の射手で止めを刺そうとする。すると


「模擬戦闘、中断」


 いきなり模擬戦闘が中断する。流石の芽衣もこれには疑問を感じる。


「どういうことです?」

「今の模擬戦闘は選考会の趣旨に反している。もう一度、やり直して下さい。」


 趣旨など説明されていなかった筈だが、強制的にやり直させられる事となった。

 授業で習うような基本的な模擬戦闘は、確かに遠くからの魔法の撃ち合いが主だろう。しかし奇襲を掛けて相手の詠唱を中断させる等の手段も立派な戦術だろう。

 芽衣としても色々と言いたいことはあるが、面倒そうなので止めることにし、開始線まで戻る。反則負けではなく再試合なだけマシだと思ったからだ。

 すると憎々しげに芽衣を見ながら桜宮が煽ってくる。


「ざ、残念だったわね。まああんな奇襲で勝っても後で恥をかくだけよ。感謝する事ね」

「桜宮先輩って凄いんですね。」

(何という精神力だ。尊敬に値するな)


「それでは再試合、始め。」

   

 芽衣としては別に奇襲のつもりも無かった。ゲーム内では複数人を相手にすることが多いため、まず後衛の魔法使いを先に潰すことが癖になっているだけである。

 

 そして観戦していた教師や生徒たち、桜宮自身も気がついていなかったが、いくら威力が高い攻撃魔法を発動しようとしていたと言えど、桜宮が1つの魔法を発動するまでに、芽衣は移動魔法と閃光魔法を発動している。

 遠距離からの魔法発射という単純な速度勝負で桜宮に勝ち目は無いのだ


「『炎槍よ、穿て』」

「くっ、『防げ、風楯』」


 桜宮は1度目の炎槍を風楯で何とか防ぐ。


「『炎槍よ、穿て』」

「ふ、『防げ』」


 2度目は不完全な風楯となり、完全には防ぎ切れなかった。


「『炎槍よ、穿て』」

「ふ、ふせっ!!」


 3度目は防御魔法を発動すら出来ず直撃。桜宮の完全敗北が決定した。流石の教師陣もこの結果には何も言えない。

 桜宮を降した芽衣は、桜宮以外に強敵がいないトーナメントで負けるわけも無く、順調に勝ち進み、学校の代表の座を勝ち取るのだった。

    

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