第33話 譲れない条件★
メイリーの予感が合ってても、間違ってても暴風狼1匹と旋風狼2匹が出没したというだけで大事である。
しかしライム領では対策の取りようも無い。
今はライム領の領主の頼みで、ガンルーを警備の補佐に出しているため、もしガンルーに危険が降り掛かるような事態になれば、ティーチの命令か、ガンルーの奥さんであるアリスさんのお願いで、メイリーが助けに行くこともあるだろう。
しかし、ガンルーの出向期間が終了すればライム領に暴風狼はおろか、旋風狼を倒せる戦力はいない。
他の場所からそれらの魔獣を倒せる冒険者たちを雇えるならば、もともと、ステンド家に頼んでいないだろう。
そのためライム領の領主たちに伝えても混乱を招くだけである。そのため、メイリーはティーチにのみ伝え、後の事は丸投げする事に決めた。
「とは言え俺も旋風狼をギリギリ相手取れるくらいで、お前の予想通りの事態になってもそれを対処できる人材がいない。メイリーなら対処できるかもしれんが、お前の性格上、強制的にやらされるのは嫌いだろう?」
「はい。今回も、私的に興味がある魔獣だったから戦いましたが、興味の無い魔獣の依頼を出された所で受けたいとは思わないですよ」
「まあ、本当の緊急事態なら、本職の冒険者や国家騎士の大量動員などを要請する他無いか」
ガンルーの案は正攻法である。しかしその案が採用できる領地ばかりではない。現に隣の領地から筆頭騎士を借りているのが、ライム領の現状である。
これが市民を守るという使命に燃えるガンルーだからこそ成立している話であり、そんな都合の良い性格はしていないメイリーには通用しない。
メイリーは比較的に善良であり、進んで他人を不幸にしようとは思わないが、それ以上に自由人なのである。
「私は自由に冒険がしたいの。何処のどの種類の魔獣を狩るか全て指示された上でじゃ意味が無いんですよ」
兎に角、ステンド領の行く末もガンルーの行動の決定権も、領主であるティーチが持っている。
そのためやはり、ティーチにこの状況を報告することになった。
メイリーはガンルーの手紙を持ってステンド領に向かうのであった。
ステンド家に帰還したメイリーは、ティーチとの面会を希望する。
メイリーの珍しい行動を重要視したのか、旋風狼が現れた頃からずっと忙しい筈のティーチは面会に応じてくれた。
メイリーは、ガンルーからの手紙をティーチに手渡しつつ、自分が見た状況も口頭で説明する。
話を全て聞き終えたティーチは、頭を抱える。
「暴風狼なんて情報が出回ったらここら辺に寄り付く人たちはいなくなるだろう。それに領民たちも出て行きたがるかもしれん。旋風狼の出没もガンルーという英雄が誕生したお陰で何とかなったと言うのに……どうするか」
ガンルーからの手紙に、メイリーについて何か書いてあったのだろう。ティーチはメイリーの様子を窺うようにしている。
「現状、君に頼むしかない状況だ。ここら辺の領地の騎士や冒険者たちは、魔獣に慣れておらずここ数年の魔獣増加に四苦八苦している。中型魔獣など相手に出来ようも無い。かと言って都市部の強力な冒険者を呼ぶほどの資金も無いし、数年前から申請している国家騎士の増援も未だになされないままだ」
ティーチは状況の深刻さをメイリーに訴える。しかしメイリーとしてもそう簡単に頷ける話では無い。
メイリーにしか頼れないということは、メイリーがこの街を離れられないと言うことを意味するからだ。
「報酬は払えないけど守れということですか?この脅威が去るまで?」
「…そうだ。君の予想が正しかろうが間違っていようが、事実暴風狼が出没したのならばお願いするしかない。残念ながら君が欲しがるような物を用意することは出来そうに無い。」
「へー」
メイリーとしても無報酬で働かさせられても、自分の手柄が横取りされても別に大した問題では無かったので、笑って許していた。
しかしメイリーが転生したばかりの頃からの計画である、ファンタジー世界の自由な冒険が、狂わされれる危険があるのならば、それは絶対に許してはならないのだ。
ティーチとメイリーは協議を重ねる。
譲れる条件と譲れない条件などを出しあった。本来、領主と商会の娘がこんな対等に話をするなどあり得ないことである。普通の領主ならば貴族の強権で無理やりにでも従わせようとしてきたかもしれない。その点では、メイリーはステンド領に産まれて良かったと言える。
協議の結果、ある程度の結論が出た。
メイリーとしては報酬はいらないので自由を保障して欲しく、ティーチとしては適切な報酬は支払えないが出来る限りの便宜は図るので、問題が起きたら、力を貸して欲しいという事であった。
そのため、メイリーはランクが上がるまでこの領地やこの近辺で活動するので、それまでに出来るだけ問題解決に力を尽くし、それでも解決に至らなかったら定期的にこの領地に帰ってくる。
そしてティーチは、これからのメイリーの冒険者活動に置いて後ろ盾となり、その活動にも協力することを約束するのでだった。
「すまない。本来なら我々で何とかしなければならない問題なのに。我は我の力が及ぶ限り君の自由が阻害され無いように力を尽くさせて貰おう」
「はい。お願いします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます