第34話 兄妹喧嘩☆★
暴風狼という強敵との戦闘の興奮が収まらない芽衣。
本当ならこの興奮のまま、ぶっ続けで『疑似転生』をプレイしたい芽依であったが、VRゲームは、熱中しすぎたゲーム廃人たちが、栄養失調や寝不足で倒れ救急車で運ばれるという事件が多発してから規制が厳しくなり、現実世界の時間で3時間以上連続で、プレイが出来ないようになっている。
そのため芽衣は、この興奮を別のゲームにぶつけていた。
(それにしてもよく倒せたな。というかよく空間穴なんて思い付いたものだな。…あれを失敗してたら今頃、ゲームオーバーだったかな? そう言えばゲーム中で死んだらどうなるんだろう)
初歩的な疑問てあったが、今まで考えたことは無かった。
転生を体験するというかコンセプトからして、普通にセーブポイントからやり直しみたいな感じでは無いだろう。
かと言ってもう一度やり直しとなると色々と厳しい。
(父さんの考えることだからな。訳わからんことになってる可能性もあるな)
そう考えると、メイリーはかなり危険な行動ばかりしていると、改めて思う芽衣であった。
――――――――――――――――――
ライム領とステンド領の境目に旋風狼が出没する事件を切っ掛けに、これまで観測されていなかった小型の魔獣も出現するようになった。
これは、メイリーたちが旋風狼を討伐した後も続いていた。
この魔獣の増加によって一番打撃を受けたのは、物流であった。
単純に魔獣に襲われて商品を失うリスクも増加したが、それよりも護衛等を増やすことを余儀なくされたせいで、物価が上がってしまうことも問題であった。
この件では、メイリーの家の商会も少なくない損害が出ていた。
これがもう少し都市部であれば冒険者が集まり、街が賑わったりもするのだが、ここは少し田舎過ぎたのだろう。
商会の未来が暗いと言うことは、跡継ぎであるライルの将来も暗いということである。
そのため最近のライルは常に苛立っており、商会の従業員も近づきにくい様子であった。
そんなライルの様子を、リリーから聞いていたメイリーは、極力近づかないようにしていたのだが、この日は運悪くライルに絡まれてしまった。
「メイリー。お前は我が商会、未曾有の危機に何故そんな呑気にしていられるんだ!」
「呑気とは穏やかじゃ無いですね。別にそんなつもりはさらさらありませんが?」
「呑気だね。呑気じゃ無いのなら何故お前は仕事もせずのんびりしているのだ。」
「のんびりしているように見えましたか。それなら失礼しました。これでも今から仕事がありますよ。」
これからメイリーは、テイルへの魔法講師の時間であった。
前まではもっと頻繁に行っていたが、テイルは、学院に入るための準備も兼ねて、様々な事を学ばなくてはならないため、メイリーの魔法講師も週1まで減っていったのである。
「そう言うことじゃ…いやそれもあった。お前はどうして領主家からの仕事で、報酬を貰っているのだ。」
「はぁ。仕事をしたら報酬を受け取るのは当たり前のことでは?もしかしてライル兄さんは、仕事をしても報酬は受け取らない派ですか? 奇特な派閥ですね」
「そんな訳無いだろう!! 何故報酬を我が商会に入れないのがと聞いているのだ。私もリリーも仕事の給料など受け取らず全て商会に入れているのにだ」
ライルの言いたいことをわかっていて煽るメイリー。
そんな挑発に乗ってしまい本音を言ってしまうライルだが、それは的外れな意見である。
「ライル兄さんやリリー姉さんのお手伝いと、私の依頼を同列に語って欲しく無いですね。」
「な、何だと!」
「私も商会のお手伝いは報酬を貰ってませんよ。報酬を受け取ってるのは他者からの正式な依頼だけです。それに将来、親の脛を齧る予定のライル兄さんと違って、お金は必要ですから」
メイリーの煽りに顔を真っ赤にするが、何も言い返せないライルは、凄い形相でメイリーを睨み付ける事しかできなかった。
兄妹喧嘩を終え、メイリーは魔法講師の仕事をするため、ステンド家に訪れていた。
いつもなら嬉々として魔法の授業を行うメイリーであるが、今日は何だか調子が出ない。
ライルを相手に大人げない真似をした事を、何となく気にしているためであろうか。
メイリーの様子がいつもと異なるのは、テイルからもお見通しのようで、不満げに声を掛けてくる。
「おいメイリー。集中しろよ。何かあったのか?」
「すみません」
メイリーは誤り、事の経緯を話す。するとテイルは少し笑いながら羨ましそうに呟く。
「はは、お前もそんな子供らしいことあるんだな。でも兄妹喧嘩か。僕はやれないからな、どこか羨ましく感じるな」
「そうですか」
「あまり気にしなくて良いと思うぞ。話を聞く限り、メイリーの兄が悪いんだしな」
「テイル様に慰められるとは。まあ、ありがとうございます。テイル様」
「う、うん…」
テイルに慰められる形となったメイリーは、珍しく笑顔を見せる。すると何故かテイルは、顔を真っ赤にして俯いてしまうのであった。
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