第32話 最悪の想定★
暴風狼をカウンターで倒したメイリーであったが、かなりギリギリの戦いであった。
防御魔法で防ぎきれなかった攻撃で全身傷だらけであり、事前に肉体強化をかけていなかったら、痛みで動けなかっただろう。
しかも止めを刺したので止まったが、カウンターで重傷を追った半身は、メイリーが止めを刺すまでの一瞬の間で急速に治っていっていた。
もう少し止めを刺すのが遅れていたら、再び動き出し、今度こそ逃げる他に手段が無かっただろう。
メイリーは自分に回復魔法をかけながら、今後について考える
(取りあえず、このことを報告しなきゃいけないけどどうしよう。近いのはステンド領だけど、まあガンルーさんかな、まず)
こういった場合、領主にまず報告するのが筋ではあるが、ティーチに報告した所で事態は進展しないだろう。精々、国に相談して終わりである。国家騎士が増員されたところで、生半可な騎士では盾にすらならないし、こんな辺境の地に暴風狼を倒せる戦力が投入されるか分からない。
それならば、現場のガンルーにまずは報告しておくのが良いだろう。
暴風狼クラスの魔獣がそう何匹もいるとは思えないが、旋風狼が複数体いたことを考えれば、そのクラスの魔獣が闊歩していてもおかしくはない。
更に言えば、暴風狼が出没すると言うのは本来あり得ないことである。そのあり得ない事が発生したと言うことは、他のどんなあり得ない事象も発生しうると言える。
そのためガンルーには注意を促しておいた方が良いだろう。
ライム領の街でガンルが詰所に帰ってきているとの話を聞いたメイリーは、直ぐにガンルーの元に向かった。
お決まりの子供の相手は出来ませんと、態度に出ている係の奴を無視して、ガンルーを探す。目立ってしまうが今回は事情が事情なので仕方がない。
ガンルーは詰所に、併設されている訓練場にいたので、呼び出して個室を確保してもらう。
旋風狼を1人で倒すのも、難しいガンルーよりも遙かに弱い騎士たちに、この話を漏らすことは出来ないのだ。
漸く2人きりで落ち着いて話が出来る環境が整ったので話を進める。
「メイリー。お前がここまですると言うことはそれ程重大な事案だと言うことだな?」
「はい、まあそんな感じです。まずはこれを見て下さい。」
そう言って収納空間から風狼と旋風狼の亡骸を取り出す。
狼系の魔獣は群れを作る傾向にあるが、まさか旋風狼が複数体いるとは思っていなかったガンルーが驚愕する。
「旋風狼が2匹か。短期間に中型魔獣がこうポンポン出没するとは。それにしてもよく倒せたな」
「まだ話は終わってない。本題はこっち」
続けて暴風狼を取り出すと、ガンルーはガタガタと震え出す。
「な、なんだその魔獣は。」
「ん?ああ、ガンルーさんは騎士だからな。それ程魔獣に詳しいわけじゃ無いのか。こいつは暴風狼だよ。名前くらいは知ってませんか?」
「ぼうふ、そいつは中型魔獣の最高位で、大型とも対等に渡り合うって言われる正真正銘の化け物じゃねーか」
亡骸なのに圧倒的な存在感を放つ暴風狼に、本能的な震えてしまうガンルー。
彼も名前くらいは知っていたため、その正体を知って尚更驚く。
「そんなのによく勝てたな」
「ギリギリですけどね。相手がこっちを舐めてたから何とかって感じです」
「そうか。…ん?それで俺に話って何だ?暴風狼を倒しましたって報告なら俺にじゃなくティーチ様にじゃないのか?」
「まあそうなんですけど、これで終わるとは思えないんですよ」
メイリーは自身の感じた違和感を話し出す。
まず最初は、狼系の魔獣が作る群れにしては数が少なく、統率もとれていなかった。いかにも急造の群れという感じであった。
そもそもここら辺に暴風狼どころか旋風狼する出るのは珍しい。そう言う事を考えると、
「暴風狼ほどの相手が何かから逃げてきたって事か?」
「可能性としては。環境が変化して、引っ越してきたって話ならまだ良いのですが。もし暴風狼が勝てないほどの魔獣がここら辺の奥地に移り住んでしまっていたら最悪です。まあ予想の範疇を出ない憶測ですね。けど旋風狼クラスの魔獣がここら辺を闊歩していてもおかしくない。その可能性は高まりました」
「わかった」
メイリーの推測は突拍子も無いことではあったが、それでもこれまで中型の魔獣など見もしなかった地域に、旋風狼どころか、暴風狼が出現したのだ。警戒はし過ぎな方が良い。
各領主たちも何とか対策を講じようと努力しているが、事態はより深刻なのかもしれない。
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