第31話 暴風狼★

 ステンド家で魔獣についての知識か掲載されている書物などを読んで、一般的な冒険者以上の知識は備えているメイリーであるが、旋風狼の情報ですらそこまて詳細には把握していない。

 当然だが、その上位に当たる暴風狼などその姿形と過去、この魔獣によって引き起こされた災害くらいしか知らない。


 しかし旋風狼との戦闘経験から暴風狼の能力もある程度は予測することが出来る。

 攻防一体の風魔法が主なのは変わらない。その威力は旋風狼とは比べ物にならないだろうが。

 そこで問題なのが、暴風狼の攻撃を防ぎ、防御を突破出来るかであるが、そこに関してはあまり自信は無い。


(奇襲で暴風狼を倒せないまでも傷を負わせられれば有利だけど、防がれると一気に不利になる。正直、一か八かに賭ける展開でも無いし、あっちから狙うか)


 暴風狼と自分の力量差が把握しきれない現状で、安易に暴風狼を狙うわけにはいかない。

 そのため最初の標的は決まっている。


「『双なる炎槍よ、燃え盛り、敵を穿て』」


 奇襲と言うことを最大限生かして、高威力の魔法を唱える。狙うのは2匹の旋風狼である。しかし完全な死角からの攻撃だったのだが、魔獣としての野生の勘なのか迫り来る炎槍を素早く察知し、防御態勢に入る。

 旋風狼の風障壁に炎槍がぶつかる。本来ならば風によって炎槍は鎮火してしまうのだが、それは魔法の威力が同じ場合に起こる現象である。成長期であるメイリーの魔法力は、1年半前に戦った頃よりさらなる成長を見せていた。

 そのためメイリーの炎槍が旋風狼の風障壁を上回りり、炎槍に風が取り込まれ、その火力を上げる助けをしてしまう。


「ガッル!」

「ガルルーー!」


 炎槍を防ぎきれなかった旋風狼。1匹は貫かれ内側から焼かれ、もう1匹も重傷を負い戦えそうではない。


「よし、ってやっぱりか」


 奇襲は成功したかに見えた。

 しかし奇襲を受けた暴風狼は動揺することなく、直ぐに攻撃してくる。


「ガァルルル!ガァー」


 当然、配下を傷つけられた怒りを持っている様子だが、冷静にメイリーを仕留めようとする意思を感じる。少しでも動揺してくれれば、2撃目で暴風狼を攻撃しようと思っていたメイリーだったが、予定を変更する。


「『座標よ、換われ』」

「ガァルル!」


 メイリーは風狼の1匹と位置を交換する。

 風狼は暴風狼の『暴風』を真面に食らいズタズタになりながら吹き飛んでいった。

 流石の暴風狼も自身の攻撃で配下を傷付けてしまったことには動揺する。

 メイリーは、その隙に残った風狼を始末しつつ、暴風狼にも牽制の魔法を放つ。


「『炎槍よ、穿て』」

「ガァル!」


 旋風狼には通用した『炎槍フレイムランス』だが、暴風狼に簡単に防がれてしまう。

 魔法力的にメイリーよりも、かなり暴風狼の方が上なのだろう。


(上手いこと取り巻きは倒せたけど、状況は絶望的だな。肉体的にも勿論、魔法力的にも相手が上か。)


 仕方ないのでメイリーは飛行魔法で相手の『暴風』を躱しつつ様子を見る。


(それにしてもほんとに天災って感じだ。触れる物全て壊していくみたいな。…魔法力もアッチが上だし『座標交換』でって訳にもいかないし、ん?それならアレを使えば)


 暴風狼の攻撃を見て作戦思い付いたメイリーは、回避を止め防御魔法を使い出す。

 暴風狼の攻撃をメイリーの防御魔法で完璧に防ぎきることは難しい。

 しかし魔法を何重にも重ねることで、逸らすことくらいなら可能であった。

 

「ガァール!」


 自身の必殺の攻撃を耐えられると言う経験がこれまで無かった暴風狼。戦いにおいて苦戦するような経験がないためか、徐々に思考が雑になってきてしまう。

 ここでの最善手は、持久戦である。メイリーは防戦一方でじり貧状態。暴風狼はまだまだ余力は十分であり、勝負を急ぐ必要は無い。

 しかし経験不足な暴風狼は、自身の最大級の攻撃『嵐風』で仕留めることを決めてしまう。 

 

「来たな」

「ガァー、ガァル!」


 今までの魔法とは桁外れの威力を持つ風の塊が飛んでくる。

 これは幾らメイリーが何重にも防御魔法を重ねた所で防げる類いの物では無い。

 しかしこれこそがメイリーの狙いであった。


「『空間よ、穴開き、繋がれ』」


 メイリーが発動したのは空間魔法『空間穴』

 本来なら長距離の移動用に使うのだが、メイリーの魔法力と魔力制御ではまだまだ使いこなせない代物である。

 そんな欠陥品も短距離ならば使い道もある。それがこの状況である。


「ガァッ?ガァルーー!」

「お前自身を『座標交換』出来なくても、お前の攻撃をお前に当てる方法ならあるんだよ」


 空間穴をメイリーの前方と暴風狼の後方に開けることでのカウンターである。

 自身のしかも最大級の攻撃を、予想外のタイミングで食らえば防ぎきれないだろう。

 案の定、暴風狼は流石の反応で身体をよじり直撃は避けたものの、半身に重傷を負う。

 傷を負っても尚、睨み付けてくる暴風狼だが最早、立っていることも儘ならない。この状態なら、魔法で防御など出来ないだろう。


「ガァル、ガァルルルル!!」

「終わりだ『風刃よ、切り裂け』」

「ガル…クゥン」


 メイリーが止めに選んだのは、暴風狼よりも数段劣る風魔法の風刃であった。

 自身の最期が、そんな柔な風の刃であることに信じられない表情を浮かべながら、暴風狼は地に伏すことになった。


  

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