第12話 模擬戦★

 テイルが魔法を習い始めて半年間ほどは、魔力制御も少しずつ上達していき、簡単な魔法ならば不安定ながら発動できる程度になってきていた。

 しかしここ1ヶ月ほどは、一転して成長の兆しが見えず停滞気味であった。

 ただ停滞気味とは言え、今テイルがやろうとしている技術は貴族たちや有力な家の者たちが12歳になってから通う学院で、初めて習うようなモノであり、間違っても5歳児のテイルに教えるようなモノでは無いため、停滞するのは必然と言える。


 しかし前世の知識を頼りに魔法を習得しているメイリーには、それがわからないのだ。

 更に言えばテイルが調子を崩している間にも、メイリーはどんどん技術が上がっているので自分の不出来さを諸に感じてしまう。

 次第にはテイルは魔法を習いたく無いと言い出してしまう。


「僕は魔法よりも剣の方が得意だし、魔法は頑張っても全然使えるようにならないし。もういい。」

「そうですか。まあそれならそれで仕方ないですね。まあでも魔法であっても、剣であっても努力を継続するからこそ、上達するんですよ。」

「うるさい。天才なメイリーなんかに僕の気持ちなんてわかんないよ!」

「そうですね。わかりませんね。でも示すことは出来ます。そうですね…折角ですしテイル様の剣の講師の方と勝負させてくれませんか?そうすれば少しは魔法を続ける気に出来ると思いますよ?」


 メイリーとしては、このままテイルが魔法嫌いになろうと構わないのだが、少なくとも半年以上教えた生徒があっさり剣に寝返るのも癪なので、少しだけ道を示すことにするのだった。


 この話は、領主まで伝わり急遽、魔法講師であるメイリーと、剣術の指南役であり、この領地一番の騎士、ガンルーとの模擬戦が行われる事となった。

 

 ルールはガンルーが訓練用の模擬剣を使う以外、何でもありとなった。領主の命令とは言え、1歳児と戦わされるガンルーがこのルールだけは追加して貰った。

 するとメイリーがも、1つルールの追加を提案する。

 それが攻撃魔法の使用は禁止であった。ガンルーは魔法を使えないのでこのルール変更は一方的にメイリーが不利になる。


「この模擬戦は魔法の授業の一環なので、今現時点でテイル様が使えない攻撃魔法を使う意味はないでしょう?」


  と言う事で攻撃魔法無しで模擬戦が行われる事となった。

 元々怒りはあったガンルーだが、この提案でその怒りは頂点に達していた。メイリーはガンルーを舐めているとか、そう言った思いからの提案では無かったが関係は無い。

 誇り高き次期領主の指南役の立場に就いたら、幼子と同格に扱われ、模擬戦をさせられると思ったら攻撃魔法を使わないなど、どんな理由があれど舐められているとしか思えないのであった。

 

 そして模擬戦は開始される。


「それでは魔法講師メイリー対剣術指南役ガンルーの模擬戦を始める! 両者位置につけ!」

「……攻撃魔法を使わないからと言って手加減を期待するでないぞ!」

「勿論ですよ」

「始め!」


 開始の合図と同時に突進してくるガンルー。


 領地一番の騎士は、流石の速さで向かってくる。しかし認識的無いほどの速さでも無い。メイリーが魔法を使うには十分な時間がある。


「『浮け』そして『剣よ駆けろ』」


 浮遊魔法によりメイリーの手持ちの模擬剣が浮遊する。そして剣はそのまま意思を持ったかのように動き出し、ガンルーを牽制する。

 しかし浮遊しているだけの剣など怖くもないため、ガンルーは浮遊剣を軽く弾き、逆にガンルーの剣がメイリーに迫る。


「『防げ、風楯ウィンドシールド』」


 その剣を風の楯でギリギリ防ぐメイリー。

 渾身の一撃が防がれ少々体勢が崩されるガンルーの元に、先ほど弾いた浮遊剣が迫る。弾かれても直ぐに戻ってこれるのは、浮遊剣の利点であろう。

 しかしガンルーは、崩れた体勢でなんとかいなす。


「わざと弾かせておいての奇襲か? この程度で一本を取れると思ったか!」


 再度浮遊剣を弾いたガンルーは、攻撃に転じる。それを見計らいメイリーが魔法を発動したため、再び防御魔法かと思われたガンルーは剣の軌道を変化させる。


「何度も魔法で防げると―――」

「『浮け』」

「躱そうとしても同じことだ!」


 しかしメイリーが発動したのは防御魔法では無く、浮遊魔法であった。

  ガンルーだけでなく、領主の屋敷で働く者たちが、毎日のように見ているメイリーの移動手段である浮遊魔法。

 それを発動させるメイリーを見て、防ぐのでは無く躱そうとしていると、判断したガンルーは回避するであろう方向に剣を振るおうとする。しかしそれは出来なかった。

 浮遊したのはメイリーの身体ではなく、ガンルーの身体であったからだ


「なっ?」

「残念ですね」


 おもいっきり剣を振り下ろそうとしていたガンルーの身体が、突然宙に浮いたため、振り下ろそうとした力によって一回転してしまうガンルー。


「さて戻ってきた剣で、『疾くなれ、重くなれ』」


  その隙をメイリーは見逃さない。くるくる回るガンルーに向かって、加重魔法と移動魔法を重ね掛けられた浮遊剣が直撃する。

 使用者の体重は乗っかっていない浮遊剣は、加重魔法を掛けたとは言え軽く、普段から鍛えているガンルーには、大したダメージは入らない。しかし綺麗に一本を取られたガンルーの負けなのは、周りで見ていた者たちにも一目瞭然であった。

 そのためメイリーの勝利という形で模擬戦は終了した。


 模擬戦を終えたメイリーは、自身の指南役の敗北に呆然としているテイルに話しかけた。


「これらの魔法はもう少し魔力制御が出来れば扱える魔法です。前も言いましたが魔力制御は努力で上達しますが、魔法のイメージ力は中々難しいのです。貴方にはイメージ力は備わっていると思いますよ?」

「本当か?」

「ええ」

「な、ならまた魔法を教えてくれると嬉しい」

「分かりました」


 この模擬戦以降、テイルは魔法の勉学にこれまで以上に取り組むようになり、6歳になる頃には幾つもの魔法を扱い、『神童』と呼ばれることとなる。 

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