第11話 逆転の現象☆★

 『擬似転生』は普通のゲームと異なり、事前対策が出来にくく、思った通りの選択を取れない事が多い。

 今回の貴族関連のルートも正解か不正解か判断が難しい所である。


「貴族に目を付けられるルートはメリットは大きいが、派閥争いとか戦争に巻き込まれるリスクが大きいな。まあいざとなったら逃げ出せばいいが。まあこんなこと考えても無駄なんだが。」


 前世、つまり現実世界の記憶はゲーム内に持ち込めないので、ここでいくら対策を練ってもその通りに事が進むことは無いのだ。


「貴族のお抱えとかになっちゃったら旅も出来ないしな。旅か。『空間魔法』とか『創世魔法』とか習得できれば便利なんだか、あれって高等魔法だしな。」


 家にいても学校にいてもゲームの事を考えてしまう芽衣の元に友人の凛が近づいてくる。


「芽衣、何してるの?」

「ん?ああ、今やってるゲームで『空間魔法』とかの高等魔法を習得した方が楽にプレイ出来るから、どうやって覚えようか考えてる」

「えーと、流石は芽衣だね。普通逆なのに」

「なにが?」

「普通、現実で魔法使うためにゲームで魔法を習得するのに、芽衣はゲームのために現実で魔法を習得しようとしてるんでしょ。それで私達より成績良いんだから。私なんてこの前の飛行技能テストに落ちたせいで、家庭教師の時間増やされたのに」

「それは知らないけど。まあゲームでも魔法は使うから」


 今や純粋にVRゲームを楽しむ人口は下降の一途を辿っており、VRゲームは勉強ツールの1つとなって久しい世の中で、純粋に楽しんでいる芽衣の魔法技能が向上するというのは、中々に皮肉が効いているのであった。


――――――――――――――――


 メイリーの講師生活は最初は1週間に1日程度であったが、その頻度は徐々に増えていき、半年を過ぎる頃には週3となっていた。

 更に講師の日で無くとも領主の屋敷への出入りが、自由に出来るため、メイリーはよく読書をしに訪れていた。最初のうちは、メイリー一人で行かせるのは危ないのではとの意見があり、使用人も同行していた。

 しかし魔法もそれなりに使えるようになり、同年代の幼子よりも遥かに鍛えているメイリーに、ただの使用人の護衛など不必要になってきた。


 そもそもメイリーの屋敷と領主の屋敷はそこまで離れていない。そのため今では一人で訪問するようになっていた。


「前も言いましたが、魔力の制御が甘いので魔法の発動も不安定になっているのです。基本ですよ?」

「そう言ってもまだ半年だぞ。魔法を習い始めて半年なら凄い成長速度だって皆、言っていたぞ」 


 テイルの言う通り、5歳の子供が魔法制御を完璧でないにしてもそれなりの練度で行うのは、凄まじいことである。

 領主の屋敷には当然御抱えの魔法使いがいるが、彼らもテイルの成長には驚いていた。


「はぁー、私は魔力制御をマスターするのに1ヶ月程でしたよ?」

「それはメイリーがおかしいのだ」

「そうですか?まあでもテイル様は発動に重要なイメージ力は備わっていますよ。これで魔力制御が出来ればちゃんと魔法が使えるようになります」

「そ、そうか。それとメイリー。僕のことはテイルでいいといつも言っているだろう?」

「そうですか。テイル様」


 飴と鞭を使いこなす1歳児にたじたじな5歳児。

 この半年で随分と距離を詰めてくるテイル。

 立場的に商人の娘であるメイリーに、敬称を外しても構わない等と言ってくるが、それを鵜呑みにして呼んだ場合、後が怖い。


(なんだかな。…まあ険悪な状況よりはましだけど)


 メイリーはテイルに懐かれているだけと言うことには、まだ気付いていないのであった。 

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