第13話 魔弾の射手★

 テイルが魔法に真摯に打ち込み出したことで、成果は如実に出始める。

 本来、テイルが手間取っていた魔力制御は家で魔法について予習してきている、学院の生徒ですら手間取る魔法の最初の難関と言われている。

 メイリーの教え方が良かったのか、テイルの潜在能力が高かったのか、突破したテイルは、低位の魔法をどんどん習得していく。

 元々、良スキルを授かったことで噂になっていたのもあり、6歳の生誕祭を迎える頃にはテイルは『神童』と呼ばれる迄になっていた。


「良かったですねテイル様。皆がテイル様を褒め称えておりますよ?」

「メイリーに言われても、嫌味にしか聞こえないから謎だ」

「いえいえ、テイル様には感謝していますから。」


  テイルの名声が高まったことにより、ティーチはメイリーの噂が広まらないように、領主家やメイリーの家の使用人、領民たちに箝口令を敷いた。

 折角の次期領主の『神童』という印象が、より強力な『神童』によって薄められるのを防ぎたかったからだ。


(これで私は魔法の研究に集中できる。テイルが成長するまでは私を表舞台に上げられないだろうからな。)


 現在、メイリーには他人に構っている時間は無い。少し前に、朝起きたら突如『空間魔法』と『創世魔法』を思い出すという奇妙な現象が起こった。そのお陰で思い出した『空間魔法』と『創世魔法』は何故忘れていたのかと思えるほど、今後のメイリーが生きていく上で重要な魔法である。

 そのためそれらの初歩の部分を、現在必死に修練している最中であるのだ。

 そのためテイルが目立つこの状態は、メイリーにとってかなり有難かった。


「まあいいや。それで今度、貴族の集まりで魔法を披露しなきゃいけないんだ。だから何か良い魔法無いかな?」

「良い魔法とは?」

「えーと、派手な攻撃魔法とか…」

「攻撃魔法ですか?」

「いや、わかってるんだよ。攻撃魔法以外にも良い魔法はたくさんある。けど貴族たちに見せるにはやっぱり派手じゃ無いと伝わり難いんだって父様が。」

「そうですか。」

(一理あるな。私がこいつに教えた魔法は、どれも実用性に富んだ魔法だからな。他者に魅せるための魔法では無いな)


  他人の目を気にしないメイリーは、他者を意識した魔法など使用しない。

 そのため魔法を扱う者ならその凄さが分かるが、それ程詳しくない者には伝わらないかもしれない。

 その点、攻撃魔法は難易度が低くとも、見た目の派手さがあれば、高度な魔法のように魅せるのはそう難しいことでは無い。


「とは言え、貴族たちに披露するなら規模が大きすぎるのは危険ですし…魔法矢はどうですか?」

「えー、魔法矢なんて攻撃魔法の初歩でしょう?」

「まあそうですけど、見てて下さい。

『魔弾の射手よ、複数連射』」


 メイリーが魔法を唱えると、メイリーの周りに魔法矢が数十本出現し、一斉に的に向かって飛んでいく。

 魔法矢一本、一本は、大した威力では無いが、それが数十に束ねられれば、それなりに強固に造られた的をも簡単にぶち破る威力となる。


「こんな感じでどうですか?」

「そ、それは僕にも出来るのか?」

「ええ。この魔法は基本の『矢よ』が出来ればそこまで難しくはありませんよ。こういった攻撃魔法は発動するだけなら基礎さえ出来ていれば出来ますが、詠唱を省略したり無詠唱で戦闘中にスムーズに発動するのが難しいのです」


 と言うメイリーの甘言に騙されたテイルは、メイリーの『簡単』と言う言葉をそのままの意味として捉えてはいけないことを学ぶこととなった。

 とは言え才能があるテイルは、1週間ほど死ぬ気で努力した結果、『魔弾の射手』の習得する事が出来たのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る