第7話 豊穣の儀★
この世界には、『豊穣の儀』と呼ばれる儀式を今年5歳になる子供に行う習慣がある。
5歳になるとスキルと呼ばれる固有の技能を授かるのだが、そのスキルの数や種類は個人によってバラバラである。
メイリーの兄である、ライルは『暗算』というスキルのみを授かったが、商会の後継者としては悪くはないスキルであった。職業によっては本人の努力次第でどうにでもなる場合もあるが、技術職などはそれ関連のスキルの有無でかなり差が出てしまう。
授かるスキルによって今後の人生が左右されるので、大抵の家では5歳になる前に『豊穣の儀』を行い神様により良いスキルを授かるように祈るのである。
それを知ったメイリーは内心で
(魔法に魔獣、それにスキルか。ますますファンタジーだな。)
とほくそ笑んだが、よくよく考えれば他人事ではない、およそ5年後にはメイリーも人生を掛けたスキル授与を行うのだ。
(まあ私は前世の知識がスキルみたいな事もあるから、まあなんとかなるだろう。)
ただ魔法習得も上手くいっており、順風満帆なメイリーはかなり楽観的に捉えていた。
そんなメイリーとは対照的に『豊穣の儀』当日、姉のリリーをはじめ、両親や使用人たちは緊張でガチガチであった。
この儀式にリリー、延いてはこの商会の運命がかかっているといっても過言では無いのだ。
しかし最初の緊張をよそにリリーの『豊穣の儀』は恙無く終わる。そしていよいよ次の日には、スキル授与を迎えることとなる。
「ね、ねえ。お母さん。私…大丈夫かな?」
「何言ってるの。『豊穣の儀』もちゃんと出来ていたじゃない。」
「そうだぞ。大丈夫に決まっているだろ。」
「そうそう。リリーは心配しすぎなんだよ。俺だって『暗算』スキルだけだったけど、何とかなってるんだし、大丈夫だよ。」
家族に色々と励まされるリリーだが、表情は暗いままだ。
突然人生が決定してしまうという状況は幼子にとっては、やはり恐怖でしかないのだろう。
「ばーぶ」
(あんまり悲観的過ぎるのもどうかと思うな。そういえば前世の魔法で良いのがあったな。)
「ぉぅあー」
「ほらメイリーも大丈夫だよ。って言ってるぞ」
(いや別にそんな事は言ってないが。えーと『安らぎ』『幸運なれ』)
メイリーが魔法を発動すると、リリーの体が淡く光を帯びる。その光が晴れると暗かったリリーの表情が晴れやかなものに変わっていた。
「り、リリー?大丈夫?」
「うん大丈夫だよお母さん。なんだか少し落ち着けたわ。これもメイリーの魔法なのかしら。やっぱり凄いわね。何だか悩んでるのが馬鹿らしくなってきたわ。私、明日に備えてもう寝るわ。」
そう言って元気よく自室に戻っていくリリー。それを見送ったメイリーは、
「
(あれってちょっと気持ちを落ち着かせる効果しかない筈なんだけど。なんか凄い効いたな。まあ結果オーライだけど…もしかして『幸運なれ』予想以上に?)
あまりに劇的な効果が現れたため驚いていた。
次の日、メイリーの『幸運なれ』の効果が効いたのかは定かでは無いが、リリーは『真実の眼』という、商人にとって詐欺などに会う心配が激減する良スキルを授かるのだった。
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