第51話 初心者迷宮★
今日のメイリーは、依頼ではなく、趣味として迷宮探索に来ていた。
普通の場所に出現する魔獣と迷宮に出現する魔獣に差はないが、迷宮の魔獣は、よほど放置され『氾濫』が起きない限り迷宮から出てくる事はないため、討伐依頼が出されない。
ただ、迷宮にしか出ないような珍しい魔獣の素材や、魔獣を倒すと時々現れるドロップアイテム目当てに、様々な冒険者が迷宮に潜るのだ。
(って言ってもDランク以下御用達の初心者迷宮だから大した物は出てこないだろうけどね。まあ折角だし、楽しませてもらおう)
本来、迷宮探索はパーティーで役割分担をする必要がある。
特に罠を発見し解除するシーフ的な役割は、迷宮探索には必要不可欠である。
しかしメイリーは、『鑑定眼』と空間把握などの感知魔法を持っているため、1人でそれらの役割もこなすことが可能である。
(まあこの空間把握なら近付いてくる魔獣とかも感知できるから楽だな。)
「『風刃よ、切り裂け』」
今回は素材目当て出はないのでそこまで気にすることなく、魔獣を倒していく。
本当ならばもっと高位の迷宮に行きたかったのだが、メイリーが初挑戦であることを知っていたレレナに、
「普通の魔獣討伐と迷宮探索は全くの別物です。メイリーさんの実力なら予想外の事態が起こっても対処できるかもしれません。しかし万全を期すため、一度初心者迷宮に行って見てください」
そう説得されてしまったのだ。
レレナの助言を無下にも出来なかったため、こうして初心者迷宮に来ているメイリー。
レレナとしては初心者迷宮と言ってもそれなりに階層はあるし、しっかりと迷宮主もいる。迷宮攻略にはそれなりに時間がかかるだろうという思惑であった。
しかしメイリーは空間把握と『地図化』を併用してサクサクと探索を進めていった。全15階層あるうちの10階層まで一時間もかからずに到達したメイリーは、特に疲れた様子も見せずにどんどん進んでいく。
出てくる魔獣は小型ばかり、今のところドロップアイテムは無いがそっちにも期待はできない。
このペースなら後一時間足らずで踏破出来るだろうと考えられるので、さっさと進もうと考えた矢先、メイリーの歩が止まる。
把握した空間と『地図化』で得た情報に違いがあったのだ。
(空間把握で得た情報にはこの先、道があるはずなのに、『地図化』の地図では行き止まりになってる。調べてみるか。)
その場所は、確かに行き止まりであった。
しかしメイリーの『空間把握』がこの先の道を感知していた。
(レレナさんは初心者迷宮に隠しルートがあるなんて言って無かったのに。これは面白くなってきたな)
隠しルートなのでおそらく、これを開けるギミックがあると思われるが、流石にメイリーでもそれを探すのは至難の技だ。
そのためメイリーは、空間魔法の『短距離転移』で強引に進むことにした。
転移するとやはり、壁の先にも道は存在していた。
「よし、それじゃあ出発しよう」
そのためメイリーは未知なるルートを進んで行く。
初心者迷宮にあった隠しルート。
確かに初心者迷宮だけに隠しルートを見つけられるような、熟練者が来ないため、そのようなものが残っている可能性もあるかもしれない。
空間把握でざっと見た限りだが、小型の魔獣よりも中型の魔獣の方が多そうである。
(中型の魔物でも何とかなると思うけど、問題は魔力が持つかって所かな?)
空間魔法を迷宮に入ってからずっと使用している。このルートに入る際も転移を使用した。
別にそれだけでへとへとになるほど脆くは無いが、この隠しルートが何処まで続くかわからない以上、魔力残量には気を付けなくてはいけない。
(まあ、魔法以外を実戦で修行できる良い機会かな?)
そのためメイリーは、魔法を使わなくても倒せる魔獣は接近戦で倒すことにした。通常の中型魔獣ならば、相性が壊滅的で無い限りメイリーの魔法で倒せるし、小型魔獣ならば肉体強化済みのこの身体で、十分渡り合えるため、隠しルートもそこまでスピードを落とすこと無く、どんどん踏破していく。
しかし魔獣の強さもどんどん上昇していくにつれ、徐々にそのスピードも落ちていく。
暴風狼とまではいかずとも、旋風狼よりも強力な中型魔獣がちらほらと出始めたからである。
魔力省エネモードのメイリーでは倒せはするものの、瞬殺とはいかず、足を止めて戦うしかなかった。
メイリーの3つのスキルの1つ『自動回復』は怪我や病気だけでなく、疲労や魔力も一応、回復してくれるのだが、その恩恵は主の効果である怪我などに比べたら遅く、長期戦なら絶大な効果を発揮するが短期戦で使える代物とは言えなかった。
(岩石蜥蜴と氷水亀、他にもどんどん。これ今日中に終わるかな?)
この場所は初心者迷宮としては破格の難易度であるし、正規ルートでは殆ど出なかったドロップアイテムも何点か出た。
そのためメイリー的には面白いのだが、流石に時間が掛かりすぎてしまっている。
レレナが心配する前に、メイリーとしては、とっとと踏破したいのである。
それに引っ掛かる点もある。
(わざわざ、隠しルートにしてるってことは何かあるんだろうけど、なんだろ?)
色々と試行錯誤しつつ踏破スピードを上げようと努力して進むが、そこまでスピードは上がらず、数時間掛けてようやく、最奥らしき大部屋まで辿り着くメイリー。
(漸く着いた。魔力不足か。これからの課題になりそうね。…うーん、でもここが最奥なのかな?)
『空間把握』によると、この大部屋には魔獣が一体のみ。間違いなくボスクラスの魔獣だろう。
ただボス部屋の特徴なのか、空間が干渉を妨害しているのか、中にいる魔獣の詳細までは把握出来なかった。
「まあ、中に入れば分かるか」
そう言い、メイリーは大部屋に侵入する。するとそこに居たのは、
「ブモォーーオ!」
「魔獣…じゃ無いか。これは『
そこに居たのは迷宮の番人『
ミノタウロス、牛頭人身の怪物である。魔法は使えないが、巨大な体躯とパワーは大型魔獣にも匹敵すると言われている。
ミノタウロスの得物は巨大な戦斧でありそれを力いっぱい振り回してくる。さらに頑丈であり自然治癒力も高いため、遠距離攻撃が弱いパーティーでは厳しい相手であった。
そのため中堅の冒険者パーティーの壁のような魔獣として認識されており、ミノタウロスを倒せれば上級者の仲間入りなんていう人もいる。
しかし残念ながらメイリーを相手にするには、ミノタウロスでは相性が悪すぎた。
リーチがあるとは言え、ミノタウロスの間合いの外側から一方的に攻撃が出来るメイリー。
しかも場所が大部屋という事で、飛行魔法と空間魔法を併用して、ミノタウロスが追い付けないスピードで逃げながら、攻撃を繰り返せる。
治癒力が高いミノタウロスでもメイリーの高火力の魔法を浴び続ければ流石に耐え切れない。
そのためミノタウロスは粘ることも出来ず、早期に決着がついたのだった。
(強いんだろうけどな。相性が悪かったけど。おっドロップだ)
ミノタウロスの亡骸が光の粒子となって消え、そこからミノタウロスが握っていた戦斧よりも1回り2回り小さな戦斧が残されていた。
メイリーの『鑑定眼』で見てみると『牛鬼戦斧』と出ていた。
「『怪力』のスキル持ちの魔武器か。魔武器は珍しいってレレナさんも言ってたし、もしかしたら『初回討伐報酬』かもな。武器自体の性能も高い。けど私じゃ使いこなせないな」
装備するとスキルの恩恵を受けられる物を魔武器や魔装備などの言い方をするのだが、基本的に迷宮でそれらがドロップするのはもっと高位の迷宮である。
ここが隠しルートであったとしても、最初の討伐で魔武器が当たるほど楽ではないため、『初回討伐報酬』と呼ばれる、初討伐のみ確定でドロップするダンジョンの仕様だと判断するメイリー。
(さてと、じゃあ正規ルートに戻ってそっちのボスも倒すとするか)
またミノタウロスを倒したメイリーは、本来の目的であった、正規ルートの迷宮主もサクッと倒すことに決めるのであった。
結局、正規ルートのボスを倒す頃には夕暮れ時になっていた。移動と感知により魔力もかなり減ってしまいヘロヘロな状態で冒険者組合に戻ると、何故だか自慢気な表情で出迎えるレレナの姿があった。
「どうでしたか?初心者迷宮は?思ったより迷宮探索は難しかったでしょう?」
「うーん。まああれを初心者迷宮と、言って良いかわからないですけど、まあ面倒ではありましたね」
「はい?」
言っていることがよく分からない様子のレレナだったが、そんな事お構いなしにメイリーは迷宮で手に入れたドロップ品を提出する。
「初心者迷宮でドロップアイテムですか。運が良かったんですね。ああ、そう言えばメイリーさんは運気上昇系魔法が使えましたね?」
「まあそれは今回使って無いんですけどね。あとこれも」
「おお、お…えっ?ええっ!」
メイリーが出した『牛鬼戦斧』にレレナが固まる。
「えーと、これは?」
「牛鬼戦斧ですよ。ミノタウロスから出ました」
「み、ミノタウロス?」
「うーん、10階層に隠しルートがあったんですよ」
説明するメイリーだったが、流石に信じられないレレナたち組合側は後日、メイリーの案内のもと事実確認に赴く事になるのであった。
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