第52話 夏と海☆★

ゲーム三昧な夏休みもあっという間に過ぎていき、来週には『魔法演舞』の本選が迫ってきていた。

 そんな、『魔法演舞』本選出場の全出場選手たちが最終調整に余念が無いであろう時期に、芽衣はと言うと、海に来ていた。

凜は今年の夏休みで海に3回くる予定らしいのだが、その内2回は芽衣の予定が合わず(ゲームしか予定が無いのだが)、結局魔法演舞、1週間前と言う中途半端な時期に来ることになってしまった。

 とは言え、芽衣も事前に準備をする用意周到なタイプでは無いため、中途半端な時期であっても問題は無いのである。


 真夏の太陽を全身に浴びながら泳いでいると疲れてくるため、休憩がてら、ビーチパラソルの下でお喋りをする2人。


「てことで、この前家事魔法を覚えて家事の効率が大幅に上昇したな」

「もうちょっと魔法演舞で使えそうな魔法を習得しようよ。ほらこの前資料を送ったでしょ」

「うーん。あんまりって感じ」


 芽依は『擬似転生』の話をしたいのだが、凛はやはり『魔法演舞』本選の話をしたいようなので、自然と話がそちらに移る。


「あんまりって?」

「炎とか風みたいな基本的な魔法と違って資料で見せて貰った魔法って習得するのに、コツって言うか、才能みたいなのが必要なんだと思う。私も空間魔法を習得するのにかなりの時間が掛かったからな」

「血筋とか生まれつきで魔法の習得のしやすさが変わるの?そんなゲームみたいなことが?」

「さあ?そこら辺の詳しいことは興味がない。でも正直、彼らの魔法を習得出来たとしても付け焼き刃にしかならないから」


 芽衣の言葉に凜は不安そうな顔をする。凜にとって芽衣は、気が付くと魔法を習得してくる天才という感じである。『擬似転生』をやり始めてから天才しに磨きが掛かっている感はあるが、それとは別に昔から魔法の習得スピードや練度は高かった。

 そんな芽依が付け焼き刃にしかならないと断じる魔法を使いこなす本選出場者。

 凛としても芽依の実力は疑わないが、それはそれとして不安を覚えてしまうのであった。


「まあ大丈夫でしょう。物真似は出来ないけどちゃんと対応は出来るだろうし。資料を見た限り何も出来ずに敗退ってのは無さそうだ」

「そっか。じゃあ安心して観てられるね。楽しみだな東京」


 そんな不安も芽依の一言で直ぐに解消してしまうあたり、凛は、かなり単純な思考回路の持ち主なのだろう。


(まあ一緒にいて楽なのは、こっちだし、凜にはこのままでいて欲しいものだな)

「えっ?なに?」

「いや、何でもない。そろそろ休憩終わりで泳ごうか」

「うん? そうだね」


その後、芽衣の飛行魔法を応用した水泳魔法や、造形魔法を使った砂城作りなどで大いに楽しむのであった。


――――――――――――――――――――


 初心者迷宮に隠しルートが存在する。

 この情報は、冒険者や組合にとって、かなり衝撃的だったようである。

 組合ではこのルートの処遇について話し合われていた。処遇と言うのは、ルートを解放するのか封鎖したままにするのかである。

 国や組合の利益としては解放するのが良いのだが、冒険者の育成を考えると初心者迷宮は貴重なので、それを壊したく無いという意見も多い。そのため会議は難航していた。

 

そのため本来、迷宮での新情報などは報酬や昇格などが付いてくるのだが、それもお預け状態のメイリー。


(報酬も昇格も別に要らないんだけどな。まあ組合としても、他の冒険者の手前、正当な評価をしないと後が怖いか)


 隠しルートを発見すると言う、冒険者の功績としてもそれなりに評価されるモノに何の評価もされなければ、他の冒険者たちのモチベーションの低下を招く危険もある。

 そのため、組合としても慎重に判断する必要があるのだ。


(こんな中途半端な状態だと組合にも行きづらいし、かといって迷宮はもっとなー)


 そんな考えのため、珍しくも屋敷でだらだらしているメイリー。

 そんな暇をもて余している彼女の元に、1通の手紙が届けられる。

 差出人名にはテイル・ステンドの名前があった。





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