第28話 伴わない名声★
今日のメイリーはステンド家の依頼でライム領に来ていた。
旋風狼の討伐以降、魔獣討伐がてら荷物の輸送兼護衛の仕事を度々依頼されていた。
いつもは、荷物の重量の関係上、浮遊魔法や疲労軽減の魔法を併用して、移動速度を上げながらの旅路である。
しかし今日は、メイリー1人で、荷物も少量であるため、空間魔法を使い、10分足らずでライム領に行くことができる。
他の領地にちょっとした用事がある時などに便利なのだ。
今日の依頼は、現在ライム領にいるガンルーに領主からの手紙と彼の妻であるアリスからの手紙を届けると言うモノであった。
「ガンルーさんいますか?」
「ん?どうしたお嬢ちゃん。ガンルーさんは今、忙しいんだよ。そうでなくてもガンルーさんに会いたいって人は大勢いるからね。」
別にガンルーになど会いたい訳では無いのだが、そう勘違いする程、ガンルーは人気なのだろう。
詰所の番をしてる騎士の誤解を解くのも面倒なメイリーは、いつものように、騎士にティーチから受け取った手紙を渡してその場から立ち去る。
「はぁ。別に会いたい訳じゃ無いので。じゃあガンルーさんに渡して下さい。それでは」
「なんだい?手紙か? そういうのも受け取って無いんだが…なっ、ステンド・ティーチ様から?お嬢ちゃん、君は、」
引き留められると面倒なので、さっさと逃げる。そして詰所から少し離れた所で待機している。すると詰所からガンルーが出てくる。
「ティーチ様は時々、私のことを4歳児だって忘れてる気がする。手紙を届けるだけで毎回、面倒くさくて」
「すまんすまん。一応、番をしてる奴らにはお前のことは言っているんだがな。えーと、それでだな。」
「…ああ、アリスさんからの手紙を渡し忘れてた。はいどうぞ」
「忘れてたじゃないだろ、毎回じゃないか!」
貴族の手紙を運んでくる子供と言うだけで目立ってしまうし、そこでガンルーと話し込んだら更に注目を浴びてしまう。そのため毎回、餌を使ってガンルーを呼び出すようにしているメイリーであった。
そもそもガンルーが隣の領地まで出張してきている理由は、旋風狼にあった。
ライム領に突如出没した旋風狼が何処から来たのか。そして他に危険な魔獣がいないかを調査しなくてはならないのだが、それを出来るような腕利きの冒険者や騎士がライム領周辺に、ガンルーしかいなかったのである。
「それで、調査の方は大丈夫なんですか? と言うか今更ですけど、ステンド領の騎士のガンルーさんが何でライム領で魔獣の調査何てしてるんですか?」
「有名税ってやつかな。まあ旋風狼レベルの相手だとここらの冒険者たちだと相手にならんからな。」
「ガンルーさんもね。」
「わかってるよ。でもこれでも前よりは強くなったんだぞ」
旋風狼を1人で倒したと言う噂が広まったちめ、この近隣の領地で英雄として名が馳せたガンルーは、その名に恥じないようにより一層修行に励むようになった。
『飛斬』と似た魔法を使うメイリーに、その運用方について助言を求めたりと、その頑張りはメイリーも知っている。しかしそれで旋風狼のような、中型の魔獣を倒せるまでになったかと言えば微妙である。
それでも近隣で1番腕が立つガンルーが適任なのも事実だ。元々、ここら辺に中型の魔獣が出没したことが不自然なのだ。またそれに伴って小型の魔獣や魔物も増えだしたようで、このまま増え続けるようでは近隣の物流はストップせざるを得ない状況に追い込まれる。そこで白羽の矢が立ったのがガンルーなのだ。
「全く。旋風狼クラスの化け物が出ないことを祈るしかないな」
「折角だからそういうのが出てくれた方が面白いですけどね。まあもし出たときに私がいたら私が相手しますよ」
「ああ、その時は頼むぞ。はぁー」
実力の伴わない名声は自身を傷つけるだけだとかとメイリーは思う。この状況になった原因の一端は自分にもあることを棚上げして。
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