第29話 注目される1日☆
週明け、『魔法演舞』の予選や凛の家でのお祝い、それに夜中までゲームをやっていたせいで、いつもよりも疲れた様子で登校してくる芽衣。
ゲーム世界で荷物の護衛などを行っているからか、最近感覚が敏感になっている故の気のせいかもしれないが、周りに見られているような気がしていた。
(特に前までと変わった様子もない筈なのにな)
そんな疑問を抱きつつ教室に入ると、そこまで親しくもない級友たちが、芽依のもとに駆け寄ってくる。
最初はぎょっとした芽衣だったが、皆が口々に魔法演舞予選のことを聞いてくるため、何で今日、注目されていたか悟った芽依。
一応予選も、各県でテレビ放送されているらしいが、今までの人生で特に気にしたことが無かったため、ここまで注目されているとはしらなかった。
この反響の多さに、この学校の生徒達がどれ程魔法演舞に興味があるか目の当たりにした気分の芽依であった。
(まさか、私がこうして知らない人たちに囲まれる事になるとは。これが鈴さんの言っていた反響が凄いと言うことか。くっ、ストレスが。)
「どうだった?」だの「凄かったね」だの言われても、芽衣にとっては、久しぶりに遠出をして疲れた、くらいの感想しか無いので、彼らを喜ばせるリアクションが取れない。
人見知りをする性格では無いが、別に他人とコミュニケーションを進んで取るタイプでも無いので、どう返事を返すべきか悩ましい。
「もう、芽衣が困ってるでしょ。散って散って」
そうこうしてると、人集りを掻き分けて登場した凛が助けてくれる。
そのお陰で、何とか自分の席に辿り着くことが出耒た。
凛の発言で落ち着きを取り戻したクラスメイトがぽつぽつと質問してくるので、それらに返答していくと次第に満足したのか自席に帰っていった。
ただ、朝のHRの時間となり、担任が現れると1度鎮火した熱が再燃してしまう。
授業のたびに先生がその話をするため、その度に鎮火して熱が再燃してしまい、結局今日は一日中、人々に纏わり付かれるのだった。
先生たちの反応からしても、この高校は県下有数の魔法演舞強豪校の一つではあるのだろう。伊達に昨年、桜宮が本選出場を果たしていないと言える。
そして今年は、1年生ながら圧倒的パフォーマンスを見せた芽依が予選トップでの本選出場。柏木琴音も組み合わせの不運はあれどベスト16には残っていた。
兎に角、この学校にとって良い魔法演舞であったのだろう。だからと言って芽依に根掘り葉掘り聞いてくるのは勘弁して欲しいが。
下校時間になる頃には、芽衣はもうへとへとになっていた。
(散々な一日だった。こんなことなら今日は休めば良かった。まあいい、今日もゲームで癒やされるしかないな)
疲れの一端にはゲームのやり過ぎによる寝不足もあると思うのだが、芽衣はゲームをやらないと精神的に疲れてしまうので、ゲームをやらない選択肢など存在しない。
とそんな事を考えている芽衣のもとに近づいてくる男性がいた。
「あのー鹿島芽衣さんですよね。私、魔法技術研究所の杉本ですけど。少しお話良いですか?」
彼が鈴が言っていた人事部の奴なのだろう。しかしへとへとの芽衣はそんな男に気が付かない。
護衛などで感覚が鋭くなっているとは何だったのかと思うほどの鈍感力を見せつけ、ナチュラルに無視を決め込む。
(もう今日は早く帰りたい。)
「あのー。聞こえてますよね。鹿島さん?」
(目立つから止めてたけど、どうせ目立ったんだし、いいか。)
「あのー!」
「『飛行せよ』」
目立たないために控えていた魔法での登下校を今日だけ解禁する芽衣。
取り残される人事部の杉本。
「え、えぇ…」
飛んでいってしまう芽依を見つめる彼の背中には、哀愁が漂っていた。
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