第54話 王位継承★

テイルの学院で出来た友人であるリュートは、この国の第2王子であるとのことであった。

 話を聞いてみるとテイルがメイリーを呼び出した用件もリュートに関することらしい。リュートは現在、第1王子と王位継承を争っているらしい。

 王位継承の具体的な事情については、深入りして面倒事に関わり過ぎたくないメイリーは、敢えて此方からは聞くことは無い。


 メイリーにとって大切なのは、実際の依頼である。



「『宝竜の迷宮』のドロップアイテムが必要だと」

「はい」


 その王位継承戦を有利に進めるために、『宝竜の迷宮』と呼ばれる迷宮で手に入る、とあるアイテムが必要なのだとリュートは言う。

 メイリーとしてもダンジョン攻略ついでに受けられる依頼はお得なので、断る理由は少ない。『宝竜の迷宮』も、メイリーの実力的が足りないレベルのダンジョンでもないだろう。

 

 しかしそれはメイリー視点の話であり、メイリーの実力を知らないリュートが、幾らテイルから話を聞いたと言えど、依頼してくる事には疑問が残る。

 

「事情はなんとなく分かりました。それで1つ質問が、何故私に?」

「それは勿論、僕の親友であるテイルが信頼する…」

「そう言うことでは無く、まだCランクで貴方よりも4歳も幼い私に依頼するよりも、第2王子である貴方様であれば、もっと信頼できる高ランクの冒険者に依頼出来るのでは、と言うことです」


 詳細は省いたとは言え、話を聞く限り、リュート的には、失敗が許されないと言う類いのモノではない。

 それでもメイリーに依頼するなんて博打を打つほど、どちらに転んでも良い類いの依頼でもない。

 第2王子ならば、最高位冒険者とまで言わずとも『宝竜の迷宮』で活躍する高位冒険者を雇えば良いだろう。

 そんなメイリーからの指摘に対し、リュートは気まずそうな表情を浮かべる。


「…実は、兄さん、第1王子側の陣営に冒険者組合で莫大な権力を握っている人がいるんだ。彼が高位の冒険者に声をかけてしまっているから、誰も僕の依頼を受けてくれなくなってしまった。もう個人的なツテに頼るしか…」

「なるほど。やはり面倒事でしたか」


メイリーが厳しい顔をする。それを見たテイルは不安そうな表情で尋ねてくる。


「メイリー。駄目か?」

「うん?別に駄目ではありませんよ。王位継承がどうとかであればこう言った面倒はあるものです。いわゆるテンプレート」

「てんぷれー?なんだそれ。」

「いえ、忘れてください。それで、『宝竜の迷宮』って言うからには、ボスは竜種ですよね?」


 メイリーの行動を制限する類の面倒は嫌いだが、権力者とのコネは、ファンタジー世界を自由に謳歌する予定のメイリーにとってバカにならないモノである。それに今回の依頼は竜である。受けない訳にはいかない。

 ただ、一概に竜と言ってもピンキリである。

 大型魔獣よりも上に分類される個体もあれば、小型魔獣と同等程度の個体もいる。


メイリーの質問に護衛の1人が答える


「今回は宝竜の迷宮でドロップするアイテムが目的であります。絶対に迷宮主である宝竜を倒す必要はありません。ただ、情報ではドロップする割合から考えますと。」

「宝竜を倒せるならそっちの方が確率が高いんですね。まあそれなら倒せるならそっちを目指した方がいいですね。…期限は2ヶ月ですよね。分かりました。受けさせていただきます」


期限は2ヶ月、依頼の品は『宝珠』。迷宮主を倒さないと厳しい可能性が高いことを考えれば、2ヶ月という期限は、普通の冒険者には厳しい。とは言え空間魔法でショートカット出来、幸運も呼び込めるメイリーならば、何とでもなるだろう。


リュートは依頼書を読み込んでいるメイリーを難しそうな顔で見つめる。

 やはり幼いメイリーに危険な依頼を頼むのは気が進まないのだろうか。


「それでは本当に宜しくお願いします。」

「まあ何とかしてみます」


 そう言いリュートは立ち上がる。

 事前にテイルから、依頼交渉が終わったらメイリーと2人で話したいと言われていたため、メイリーとテイルを残して退室するのてあった。


 店から出て直ぐに、護衛の2人がリュートに不満げな様子で話し掛けてくる。


「本当に彼女に任せて大丈夫何ですしょうか?」

「失敗しても致命的ではないとは言え、あのような少女に!」

「テイルの信頼している者だからです。僕もあそこまで少女だとは思っていませんでしたが。それでも信じるしか無いでしょう。貴方たち2人を相手に戦闘系スキル無しで勝利したテイルが、足元にも及ばないと言わしめた彼女の強さを」


そんなリュートの言葉に何も言い返せない護衛たちなのであった。





リュートたちが帰った後、店に残ったメイリーとテイル。


「予定も聞かず、人を呼びつけるなんて随分貴族らしくなられましたね、テイル様」

「す、すまん」

「まあ、色々、あの方々も忙しそうなので、日にちをずらせなかったと言う所でしょうが、気を付けてくださいね」


 テイルはまだまだ子供であるため、配慮に欠けた点を全て怒ってもしょうがないだろうと、師匠らしく少し注意するだけに留め、後は、テイルの学院生活の話や、メイリーの冒険者生活の話をしながら盛り上がるのであった。


―――――――――――――――――


『宝竜の迷宮』は現在、メイリーが住んでいる王都から程近い都市、クリーア領のに存在する迷宮である。

 そこまで遠方ではないが、王都から通うのは現実的な距離とは言えないのだが、メイリーなら王都から『宝竜の迷宮』まで空間魔法でものの十数分で行き来できる。


「と言うことで、これから1、2ヶ月は帰りが遅くなる。供給される魔力が足りなくなってきたら、すぐに言うこと」

「わかった」

「わかった?」

「いいよ」

「まかせろ」

「だいじょうぶかな」

「そだね」


メイリーはシルキーたちに家を任せて、遠距離転移を使い『宝竜の迷宮』に向かうのであった。

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擬似転生記 和ふー @qupitaru

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