第26話 将来の火種★

 スキルには様々な種類のものが存在するが、ライルが授かった『暗算』などはスキル単体できればそこまで良いスキルとは言えない。

 スキルが無くとも努力すればスキルと同程度に暗算をこなせるようになるからだ。

 しかし将来、商会の後継者になるライルにとっては努力せずとも一流の商人レベルの暗算が可能となるため、良いスキルと言えた。

 また普通なら将来の職と関連のあるスキルを得る者の方が少ないためライルは運が良かった。その筈だった。


「でもライル兄さんはかなり気にしてるみたいなの。メイリーのお陰で私も良いスキルを授けられたのに、俺はって。従業員の中には私が婿を取ってそれを後継者にって言う人もいるくらいだったの。」

「そうなんだ?でもリリー姉さんは家の商会て一生を終える気なんて無いんでしょ?」

「まあね。お父さんもお母さんも、私が商会にそこまでの興味が無いの知ってるし、私もスキルを除いたら向いてないからね」


 1歳からステンド家に入り浸っていたメイリーにとっては初耳であったが、これだけでもこの世界でスキルが重要視されていることが分かる。更に言えば、リリーは向いていないと言っているが、ライルよりも商人として才能がありそうなのも、この話が出た理由の一つであった。

 

 商会のためを思っての発言なのだが面倒な話である。それでもリリーが拒否すれば仕方ないとなるくらいの話ではあった。これで終わればであるが。


「で、次は私か」

「そうね。私のはリスク回避には良いけど、そこまでしなきゃならないほど敵も多くなかったし。直接的な利益には繋がらなかったもの。でもメイリーは違うのよね」

「面倒な話だ。」


 メイリーが冒険者になりたいと思っていることは、商会の人間ならば誰でも知っている。

 そして少し前までは、次女の将来が決まっていることを喜ばしく思っていた者も多かった。後継者争いでボロボロになる商会は、それなりに多いモノである。

 しかし、ステンド家での活躍。そして4歳になって、運送兼護衛のお手伝いを始めた結果、それによりかなりの利益を産んでしまった。この才能をこのまま手放すのは惜しいと言う声が出てくるのは必然であった。

 残念ながら『暗算』スキルを除いたら、ライルに商人としての才能は無い。そう感じてしまう程に妹二人は才能に恵まれていたのだ。


「家は大きな商会だから街から街へ荷物を輸送することが多いし、その時の経費を削減できるのは大きいわよね。それに他の冒険者に頼まなくても魔獣の素材がある程度揃えられるかもしれないし。まだ4歳なのに頭も良いから今から勉強すればライル兄さんよりも…」

「リリー姉さん。」

「わかってるわ。そう言う声もあるって話。で、その話を一番気にしてるのがライル兄さんなの。私の時はしっかり否定してたお父さんたちも、言葉を濁してる感じだし。」


 メイリーにとっても商人として一生を終えるつもりは毛頭無いので、この話はどうなっても実現されない不毛なモノである。

 しかし。当事者の1人であるライルの方は意識してしまい、メイリーを親の敵のような目で睨んでくるのだ。

 もしこれで商売をするのに有利なスキルでも授けられた日には、さらに面倒な事態に巻き込まれることだろう。

 しかしメイリーとしては実害も無く、誰になんと言われても冒険者になる予定を変えるつもりは無いので、関係ないと言えば無い。


「まあリリー姉さんには迷惑をかけるけど、来年には冒険者デビューして、ランクが上がったら大きな街に行く予定だから、それまで我慢してくれ。」

「そうね。そうなればこんなくだらない話も収まるでしょうからね。」


 結局、メイリーたちに解決する術は無く、火種は燻り続けるのだった。   

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