下書き
「あ、貴方まさか私の身体が目当てだったんですかっ!」
両手で自らを抱きかかえるようにして身をよじる死神。
いや、人をセクハラじじぃを見るような眼で見るんじゃない。……ガイコツだから眼ねぇけど。
まぁそれは置いといたとして、確かに私はセクハラそのものだがじじぃではない。大体じじぃといったら強キャラが相場だろう。しかし私は弱キャラ……従ってセクハラ以外の何者でもない。
と自らを激励している私だが、死神の方は死神の方で勝手に続けている。
「確かに私は死神界で『オタサーの姫』と言われるくらいの美少女ですから、お触りしたくなるのもわかりますけど……でも、だからといって誰でも触れるような安い女じゃありませんからねっ!」
死神なのに二つ名が「オタサーの姫」だと? ふざけるな死神ならそれらしく「漆黒の使徒」とか「深淵のシ
……あ、いや待てよそれより。
「び……美少女? まさか女性?」
私が混乱をきたしつつ呟けば、髑髏は凄い剣幕で。
「なっ! どっからどう見てもこの巨乳は女でしょうっ!!」
死神が怒鳴りながら黒いローブを胸までたくし上げるが、そこにあるのは当然骨だけ。巨乳かどうかなんぞわかる訳がない。なので私は――
「確かに豊満な肋骨ですね?」
という人生初のワードを使ってみた。すると。
「でしょう?」
と、ドク口はどこか自慢気に、どこか誇らし気に鼻を高々と突き上げていた。……鼻ねぇけど。
しかし改まり考えてみればドク口は色白で線が細く、目鼻立ちもすっきりとしている。確かに美少女の条件は揃っているが、もう一度改まり考えてみるとそもそも人間じゃなかった。
だがまあ女性であったのならば――男の中の男であり、セクハラの中のセクハラである私に触れられる事を本能的に恐れたのは正しい判断だったと褒めてやろう。
そしてそれにより私は確信を得た。彼女にはこちらから物理的に触る事が可能だと。それ即ち、有事の際にはドク口をブン殴って逃走する事も可能と……。まあ、私の腕力が足りるかどうかはさておいて……。
とりあえずこの質問で必要な情報は得られたので次の質問に行こう。
――とした時だった。
「さて、そろそろお時間です。質問に2つも答えたのだから十分でしょう。……いや、最初の質問いいですか? も含めれば3つですか……」
「えっ?」
突然だった。私の中ではあまりに突然で一瞬だが時が止まった。
嘘っ! まだ早い。ゆっくり野グソする時間もないのか!
あ、というか今気が付いたが野グソって野生のウンチという言い方も出来るのか。これは後学になったな。
……と落ち着いている場合じゃない。どうする? まだ質問したい事はあった。例えば「
――が!
死神の
「動かないで下さい。動くと狙いがズレて痛くなりますよ? ……まあ、動きたくても動けないとは思いますが」
死神の言う通りだった。死神が何をしたのかはわからない。だが私の体は恐怖とは別の理由で体が動かなかった。
――しまった。先手を打たれた!
死神が大鎌を振り上げ構える。
良く――漫画や小説などで死の間際の人間が「走馬灯が見える」という表現を使用する事があるがこれは間違いで、正確には「これまでの思い出が甦り、走馬灯のようにして見える」といった言い回しが正しい。
そして何故このような現象が起きるのか科学的に説明をすれば、死に直面した人間がこれまでの記憶を瞬間的に遡り、これまでの経験の中でその状況を打破出来る方法はないかを探るためである。つまり生存本能に因るものであって、走馬灯その物が見えても何も意味がないのである。
――で。今まさにその死の直面に立たされている私は、記憶を辿っても辿っても何故か走馬灯しか見えない。5歳の時の記憶も10歳の時の記憶も、20歳の時の記憶も20歳と1ヶ月の時の記憶も20歳と1ヶ月と2日の時の記憶も走馬灯しか出てこない。
走馬灯が見えても意味がないというのに何故だ? いや、ここは逆転の発想だ。走馬灯がどうにかしてくれるんじゃないか? 走馬灯、走馬灯……そう! 待とう!
「……あ」
死神の大鎌が振り下ろされ、私の視界は真っ白になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます