とか考えていたが、とりあえずカエルと我々が居た世界は同じ世界で間違いなく、更にはドク口がうっかりミスでカエルを殺したのも間違いないだろう。


 という事でカエルの死の責任の所在が私には全くないのがハッキリしたので私は全裸で弁当を食うより軽い気持ちで口を開く。

「まあ、それは兎も角どうやら我々は聖人と変人の違いくらい来た方法は違えど、同じ世界から来た異世界人同士みたいですね?」

 と私が握手を求め右手を差し出せば。

「はっはっはっ。そのようですね? まあ人+聖ですけどね結局は……はっはっはっ!」

 と朗らかに私の手を握り返すカエル。

『あ、なんかノレさんや竹中さんと同じ香りがする人だなぁ……』

 とドク口が脇で呟いていると竹中が目礼を一つ。

「勇者殿と同列扱いされるとは身に余る童貞」

『童貞っ!? 普通こういう時は身に余る光栄とかお言葉って言いませんっ?』

 私、竹中、カエル……同じ香りか。そしてその匂いを嗅ぎとったドク口。「英雄へんたい英雄へんたいを知る」とは良く言ったものだな。


 っとまあドク口と竹中が何かやっているが、握手を交わした終えた私とカエルは――

「しかし先程のノレさんの言葉は目からうろこでしたね」

「目からうんこ?」

 私が小首を傾げていると。

『う・ろ・こです。う・ろ・こ』

 とイチイチうるさいドク口だが、私は無視して続ける。

「さっきの私の言葉というと――『食パンを咥えつつ遅刻、遅刻~と言いながら走って曲がり角を曲がったら、出会い頭に飛び出してきた食パンにぶつかった』というやつですか?」

「そうそう。その『食パンを咥えつつ遅刻、遅刻~と言いながら曲がり角を曲げた』というやつです」

『曲がり角を曲げるってどんな魔法使ったんですかっ! てゆーかそんな話一切してなかったじゃないですかっ!』

 チッ……本当にうるさいゴリラだな? 別に魔法を使わなくても地道に工事しただけかもしれんだろう? ……食パン咥えたまま。

「それで――そのあと朝のホームルームで転入生として、その曲がり角が転入してくるんですよね?」

 これを言ったのは竹中だ。

『食パンじゃなくて曲がり角が転入してくるのっ!? 普通そこはぶつかった食パンが転入してきて「今朝のヤツ!」ってなるシーンじゃないんですか!?』

 馬鹿を言え。食パンが転入してくる訳ないだろう? 搬入されるならまだしも。


 っとしているとカエルは急に真顔になり私を真っ直ぐに見詰める。

「まあ、ラブコメあるあるは置いておくとして――真面目な話。さっきのノレさんの『この世界に来たばかりだから背伸びせずに一番下のクラスを目指せ』というのは私も感銘を受けました。実は私もドク口さんと一緒で筆記試験が芳しくなかったので少々焦っていましたが……あの言葉に救われました。ありがとうございます」

「いや、わざわざ礼なんてする必要ないですよ。言い方は悪いかもしれませんが、別にあなたに送った言葉ではないですからね」

 そう――これは私の本心だ。

「っと、そういえばカエルさんはなんでこの学園に入学したんですか? やはりこの世界で生きていくには魔法が便利そうだと思ったからですか?」

 私がフトした疑問を口にすると、カエルは朗らかな顔で。

「いえいえ、お魚咥えたドラ猫を追っかけて裸足で翔けてく裸エプロンのマッチョの匂いを辿っていたらいつの間にかここに着いていて、面白そうだからそのまま入学しました。まあ、魔法が便利そうだったというのも否定はしませんが」

『サザエさんもビックリのシチュエーションッ! なんの匂い辿ってるんですか貴方はっ!!』

 ドク口が最早社交辞令のようにツッコミを入れていると――。向こうではようやくと言うべきか実技試験が始まったようで、何人かの生徒達が教員に呼ばれ次々と的に向かい火の魔法を撃ち始める。


 ドク口、カエルの順番を待ちながらその風景を視界の隅で捉えつつ、私はアゴを撫でつつ尚も続ける。

「しかし――ありきたりの異世界転生なら、魔法に頼らなくても神様からスキルだの能力だのの一つや二つ貰ったりしていないのですか?」

 するとカエルは後ろ頭を掻きながら大口を開けて天を仰ぎ。

「はっはっはっ。いや~残念ながらスキルも能力も頂けませんでした。なのでここに辿り着いたのも何かの縁だと思い魔法を学んでみようかな……と」

 なるほど。それで私達と出会ったのならこれはもう運命だな。

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