するとミは照れ臭そうに頭を掻きながら。

「あ、左様でしたか。しかし勇者召喚にそれの巻き込まれ……どちらも主人公ムーブで羨ましい。私なんかありきたりの神様のうっかりミスで死んでしまったのでお詫びに異世界転生というヤツですよ。はっはっはっ!」

 いや、それも十分主人公ムーブだろう? 仮に私がなろう系作者で、主人公っぽくない異世界転生をさせるならば――三日三晩病院のベッドで生死の境を彷徨い、奇跡的に生還を果たした直後にそのままベッドの上で切腹する武士を異世界転生させるがな?


 とか考えていると。

『ありきたりって事は――やっぱりトラックに轢かれてか、ブラック企業勤めで過労死とかが死因ですか?』

 このドク口の質問。何気ないものだと油断して半分聞き流していたが――

「いや、まあここだけは珍しいというか王道から少し外れていたというか……実は私はトラックに轢かれたのではなく、トラックの運転中に死んでしまいまして――しかもうっかりミスしたのが神様は神様でも死神だったらしいのです」


『!?』


 見なくてもわかる。ゴリラの覆面の下でドク口が眼窩を丸くしているのを……。そして何故わかったかと言えば、私も目を丸くしていたからである。

 そんなドク口が何かを求めるようにして私に視線を送ってくるので、私は自分の勘が正しいのか確認してみる事にした。

「あの〜つかぬ事をお聞きしますが、ミさんはフルネームはなんというので?」

「え? フルネームですか? 『ミ・カエル』ですが……何か?」


 やはりかっ!!


 あの時、私を轢き殺すはずだったあのトラックの運転手がこのミ・カエルで間違いない! そしてドク口が私の名前を「カエル」と間違えた事に因って本名がカエルであったトラックの運転手の方が死んで私は生き残った。その後ミ・カエルは異世界転生、私は死神を回避した運命力から勇者として異世界転移……からの二人は異世界の地でその死神を挟んで再会……と?


 お前これどうするんだ? と私がゴミを見るような冷ややかな視線……いや、生のゴミ袋を見るような冷ややかな視線でドク口を蔑めば、ゴリラは涙を流しながら私の腕にしがみ付いてくるが――

『ど、どうしましょう?』

 知るか。お前は授乳期のゴリラか? お前の責任だろう。仮にあのトラックの運転手がカエルでなかったとしても、お前が名前を間違えたせいでこのカエルが死んだのは事実だろうからな。だがまあ一応もう少し確認しておこう。

 と思い私は再び口を開く。

「ミ・カエルですか。コンビニの弁当みたいな素敵な名前ですね? それはそうとですね、私とドク口……あ、ドク口ってのはこの更年期のゴリラの事なんですけど……」

 と私は成長期のゴリラことドク口をスッと指差してから続ける。

「私とドク口さんの居た世界ではミって苗字が結構珍しいんですけど――カエルさんが居た世界ってどんな世界でした? 地名とか教えてもらえます?」

 するとカエルは天を仰ぐ感じで大口を開け。

「あ~~うっかりしていました! 異世界から来た者同士、そしてお互い日本語を話しているから同じ世界から来たとばかり思っていましたがそうでしたね。なので今言った通り私は日本語が母国語である日本という国から来たのですがご存知でしょうか?」

 あ、やっぱりこいつドク口が殺してるわ。と確信しつつも私は質問を続ける。

「日本……あの47都道府県のある?」

「そう! それです。私はその東京……の二番煎じの異名を持つ埼玉県の出身です」

 東京の二番煎じ……間違いなく埼玉の二つ名。と思いながら私は一つ頷き。

「では、あなたは東京の二番煎じ人?」

「如何にも」

「なるほど。それならばミという苗字も納得です」

『なんで納得出来るんですかっ!』

 ドク口だったが――


 何言ってんだこいつ? 東京の二番煎じだぞ? 実は埼玉県じゃなくて48番目の都道府県――或いは戦争で日本からの独立を勝ち取った48番目の埼玉県とまでいわれている東京の下部組織だぞ? そんな魔境の埼玉県ならミという苗字の奴がごろごろ居てもおかしくはないだろう? いや、流石にごろごろは言い過ぎか?

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