起
生まれた時から職業が被告人で間違いないであろうその不審者は、片手を振りながら我々に近付いてくる。
『見に来てくれたんですね?』
誰だおまぇ……ん? この声……
「え? ドク口さん?」
『ちょ、ヒドイッ! どっからどうみても死神界の国民的ご当地アイドルのドク口じゃないですかっ!』
国民的ご当地アイドルだとっ? いいや貴様は良いところ国民的織田信長似の織田信長が関の山だな……。いや、そんなマジレスは放っておいて。
「いや、そんな覆面を被ってたらわかる訳ないじゃないですか?」
『ん? え、あぁそうでした!』
嘘だろこいつ……普通、自分が誰なのかを忘れる事はあっても覆面を被っている事を忘れる覆面レスラーなんていないだろう? しかもそんな厳ついゴリラの覆面を被ってるのを忘れるなんて相当間抜けな織田信長だぞ。
しかしまあ、確かにこれならば死神ではなく思春期のゴリラにしか見えない。今にして思えば昨日ドク口がロンググローブやロングブーツを買っていたのは、この覆面と合わせる事で正体を隠すためだったのか。
……というような事を考えながら。
「ありがとうございました」
と私は用が済んだので竹中にテスト用の酢マホを返す。竹中も黙礼を一つ挟み受け取っていると――
『あ、そうだ聞いて下さいよノレさん、竹中さん。私、筆記試験全然ダメでした。もしかしたら最下位かもしれません。なのでこの実技試験で挽回しないと本当に落ちこぼれになっちゃうかもしれません!』
胸の前で両の拳を握り鼻息を荒くしているゴリラだが――アホかこいつ? と思いながら私が口を開く。
「何言ってるんですかドク口さん。私とドク口さんはこの世界に来たばかりで、魔法に関してはこの世界の小学生なら誰でも知ってるような常識さえ知らない可能性があるんですよ? そんな奴が背伸びして良い点取って、間違って上のクラスなんかに入っても絶対勉強についていけなくなるに決まっています。なのでここでは筆記も実技も最下位で正解……一番下のクラスでイチからちゃんと学ぶのが正解なんです。そして~輝く ウ ル ト ラ ソ ウ ル ッ ! !」
『ハイッ!!』
良し。いいノリだ竹中。勢いだけで言ってみたがこの世界にもちゃんとウルトラソウルがあって良かった。っと私が空を見上げながら感涙していると。
『ええっ!? 途中まで良い事言ってた気がするのに最後で台無しっ!』
と言って私の涙を台無しにするドク口だが――その時だった。
「失礼」
男の声だった。我々3人が揃って声の方へと顔を向ければ、そこには糸のように細いつり目の金髪イケメン男子が立っていた。そしてその人物が続ける。
「申し訳ない。盗み聴きをするつもりはなかったのですが――聴こえてきたあなた方の会話が少々気になったので声をかけさせて頂きました」
と語り出す金髪だが、やはり知らない奴だな? 竹中にアイコンタクトで訊いてみるが、竹中も両肩を竦め首を振る。どうやら竹中も知らない奴のようだが――?
「申し遅れました。わたくし『ミ』と申しますが、先程の会話――もしかしてあなた方も異世界から来た、異世界転生をしてきたのではありませんか?」
なるほど。こいつさっき私が言った「この世界に来たばかり」というのを聴いていたのか……。どうりで「ウルトラソウッ」「ハイッ!」の「ハイッ!」が竹中以外の声がしたと思っていたがこいつが会話を聴いて乱入していたからか……しかし「ミ」とは珍しい名前だな? 苗字なのか?
っと私が思考を巡らしている内にドク口。
『あなた方もという事は貴方も?』
「お? おぉ! その反応はやはりあなた方もなんですね!」
まるで24時間砂漠を彷徨い、ようやく見付けたオアシスで100歳の誕生日を迎えたババァのような喜び方をするミだが、ドク口(ゴリラ)は意外とクールに。
『あ、いや……残念ながら私達は異世界転生ではなく異世界転移ですね。しかも私の場合は勇者召喚に巻き込まれただけっていう……。因みに勇者として召喚されたのはこちらのノレさんです』
と言ってドク口が私を勝手に紹介したので私は仕方なく――流しそうめんを流さないで食うぐらい仕方なく片手を上げて。
「あ、私がノレです」
と添えた。
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