歴史
――結局。なんだかんだ無事に報酬を受け取った私達は仕事終わりの一杯……と言うにはまだちょっと早い時間だったので、代わりに冒険者ギルドに併設されているカフェでお茶をしてから帰る事にした。
そんな私達がカフェでコーヒーを一口、二口。そしてお茶菓子としてサザエ、カツオ、ワカメ、イクラ、タラ、波平を摘まんでいると――
「ザラメ。お前は今日限りでこのパーティー『上品な豚』を抜けてもらう」
「え?」
「ま、平たく言えばクビだな」
――という言葉が隣のテーブルから聴く気がなくても聴こえてきた。これにより波平という名前のイチゴのショートケーキを摘まんでいたドク口の手が止まる。見れば波平という名前のブルーベリータルトを食べていたカエルの手も止まり、私も波平という名前のどう見てもアンパンマンの顔にしか見えない梅干しを食べるのを止め少し耳を傾けてみた。
「クビ? このわたくしがですか?」
「ああ、悪役令嬢だかなんだか知らないが。ただでさえ役立たずなのに、味方にデバフをかけるしか能がないヤツなんていらないんだよ。だから今日でお前はクビ。言っておくがこいつは満場一致で決まった事だ」
ここまで聴いた私は露骨にならないよう、注意を払いながら視界の隅で隣のテーブルを覗く。
雰囲気としては――隣のテーブルは6人……か? 丸いテーブルを6人が囲うように座っているが、主に喋っているのは向かい合った2人。悪役令嬢と呼ばれていた女性――赤と黒を基調とした膝丈のオフショルドレスに身を包み、薄いスミレ色の髪を縦巻きロールにした、良い意味でも悪い意味でも派手で目立つ……見た目だけで言えば海外のマヨネーズが好きそうな悪役令嬢といった感じの女性だった。
そしてもう一人は恐らくこのパーティーのリーダーと思われる――ザラメと呼ばれていた悪役令嬢と比べたら地味で特徴のない、どこにでもいるモブ。海外のマヨネーズの中に居ても違和感のない黒髪短髪の素朴な青年だった。
「凄い縦巻きロールだな……」
私がボソリと呟く。無論、隣のテーブルには聞こえないレベルだが、ドク口とカエルには聴こえるであろうボリュームだった。その証拠にドク口が。
『いやアレ縦巻きロールって言うんですか? どう見ても頭の天辺にドリル乗っけてるだけだと思うんですけど?』
とやはり私と同じくらいのボリュームで返してきた。
まあ確かに普通の縦ロールとは逆向きなので逆巻きロール、或いは逆向きロールと言うべきなのかもしれない。
しかしあのザラメとかいう悪役令嬢の髪色が薄いスミレ色で良かった。もし茶髪だったら頭にチョコレート味のソフトクリーム味の巻きグソ乗っけてるだけの悪役令嬢にしか見えなかったからな。
――としていると、そのザラメ嬢の声が飛んでくる。
「まーまー宜しいんですの? この『お上品なお豚』の『お豚』担当であるわたくしが抜けてしまえば、あなた方には『上品』しか残されません事よ?」
それは寧ろ好都合だろう? というかお前が豚担当なのか? 普通お前がお上品担当だろう……と。知らない隣のテーブルなのでツッコミを入れられないでいると、あのリーダー風の男が。
「そんな事はどうだっていい。とにかくだ、足手纏いのお前がいなくなればオレ達はもっと上に行ける。だからお前とはここまでだ……」
とリーダー風の男が席を立つと、それに続き他のメンバー達も立ち上がる。そしてそのままザラメ嬢には目もくれず――一人また一人とカフェを後にした。
一人テーブルに残されたザラメ嬢。
私は相手が一人になったので先程より些か大胆に隣のテーブルへと視線を送ると、ザラメ嬢は俯き加減に双肩をプルプルと震わせていた。
「……ふふふ。……ははは。あーっはっはっはっ!」
と思っていたら口元に手を当てて急に高笑いを始める。
「ホーント。笑わせて下さいますわあのお下民どもっ! 荷物持ち兼雑用係しかいないパーティーでどうやって上に行くのか大変
……え? あいつらあの雰囲気で全員荷物持ち兼雑用係だったの? と考えているとカエルが呟く。
「確かに荷物持ち兼雑用係だけのパーティーはバランスが悪いですね? ドラゴンクエストで言えばファイナンシャルプランナーのおばちゃんだけのパーティーという事ですから」
『ファ、ファイナンシャルプランナーッ!!』
と声を上げたのはドク口。そしてそれに私が続く。
「そうですね。全員ファイナンシャルプランナーのおばちゃん=前衛職しかいないって事ですからね」
『ファイナンシャルプランナーのおばちゃんなんて前衛職どころかどう考えたって非戦闘職じゃないですかっ! なんでモンスターのいる最前線で
いや、だからバランスが悪いって話だろうが?
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