ノンフィクション

 ――なんて、ドク口に内心でツッコミを入れてみるが。結局「上品な豚」はザラメ嬢を含めて全員担当が豚だったというか全員ただのブタだったという話だが……。


 それにしてもあのリーダー風の男。ちゃんと顔を見た訳ではないがどこかで見た事があるような……? いや、そんな訳ないか。この世界に来たばかりの私にまともな知り合いなんて殆どいないからな。

 とか考えながら、そのリーダー風の男がとっくの昔に姿を消した、張り紙禁止と書かれた張り紙がしてあるカフェの扉を眺めながらコーヒーを啜っていると――


「さ~て、あんなお下民共は放っておいて、わたくしはわたくしの実力を正当に評価して下さる新しいパーティーメンバーを探すとしましょう……アハーッハッハッハッ!」

 というザラメ嬢のデカイ独り言が……と思いながら隣のテーブルへと視線を戻せば。


「……あ」


 思わず呟いてしまったが、高笑いを続けているザラメ嬢は完全に私達のテーブルに視線をロックしていた。


 ザラメ嬢は不敵な笑みを浮かべつつ。

「ご機嫌よう。そちらの御三方――先程冒険者ギルドから出てこられましたが、冒険者という事で宜しいかしら?」

 あざといな……あんな雰囲気の中でそんなところをチェックしているとは。この令嬢、選挙ポスターの中にいても違和感がないただの悪役令嬢ではないな。……と考えながら私はドク口とカエルとアイコンタクトを送り合い「誰が答える?」としていると。

「アラ、わたくしとした事がはしたない。自己紹介もまだでしたわね?」

 ここまで言うとザラメ嬢は席を立ち上がり我々のテーブルの横まで来て。

いちじゅうさんさい、栄養満点ザラメェー! 皆様初めまして、わたくし99満天原ひゃくまんてんないザラメと申します」

 一汁三菜って和食かお前は……と私が内心で呟いていると。

『こ、これってギリギリアウトなんですかね? ギリギリセーフなんですかね?』

 と洩らしているのはドク口。これに続くはカエル。

「いや、まあそもそもこちらの世界に元ネタになっている人物が居るのかわからないので場合によっては彼女はオリジナルの可能性も……?」

 そんな訳あるのか? と私が思っていると。

「さあ! わたくしの自己紹介は終わりましたわ! あなた方はなんというパーティーのどなたなのかしら? オホーッホッホッホッ!」

 勝手に話を進めるな……。いや、この身勝手さこそが悪役令嬢の由縁なのかもしれない。……しかしそうなると、こっちも好き勝手にやっても良いという事だな? っと思った私は真っ先に口を開く。

「あ、いや、すみません。残念ながら私達は冒険者ではなくて、わかり易くファイナルファンタジーで言えばただの座薬ポーションです」

「座薬ッ! 人ですらなく座薬ッ!? そしてポーションが座薬なんて初耳ですわっ!?」

 白目をひん剥いて驚くザラメ嬢だが、実際私も初めて口にした。――のだが、そこに目を細めたカエルも乗ってくる。

「ええ、なので仮に我々が人間だった場合、全員が座薬で強化ドーピングされた狂戦士バーサーカーという事です」

「座薬でドーピングも聞いた事ありませんわっ!! き、近代のバーサーカーはそうやって造られますのねっ!?」

『そんなワケないでしょう……』

 とザラメ嬢に、一人冷静にツッコミを入れるドク口だったが、相変わらず身勝手なザラメ嬢はドク口を無視するかの如く続ける。

「それにしてもあなた方。全員バリバリに前線で戦うタイプに見えましたが、まさかの後方支援タイプであるバーサーカーでしたのね?」

「ええ」

 と私は首を縦に振るが。

『せ、戦場で生きている物を見たら親であっても殺すと言われてるバーサーカーが後方支援タイプッ!? いやノレさんが狂ってるのは認めますが、ファイナンシャルプランナーが前衛職だったり、バーサーカーが後衛職だったり……最近のファイナルファンタジーはどうしちゃったんですか?』

 これを言ったのは無論ドク口だが、カエルはドク口に視線を向けると。

「いえドク口さん。ファイナンシャルプランナーが前衛職なのはドラゴンクエストです。ファイナルファンタジーでのファイナンシャルプランナーはファイナルファイナンシャルファンタジーと言われる、全職をマスターしないとなれない最上級職ですが役割は普通の中間管理職です」

『ファイナルファイナンシャルファンタジーって早口言葉ですかっ!?』

「いや、イナルイナンシャルンタジーですドク口さん。ちゃんと下唇を噛んで下さい」

 これを言ったのは私だ。

『今発音なんてどうでもいいでしょうっ!!』

 ま、そりゃそーか。お前ガイコツだから下唇ないしな。

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