ホラー

 こうして私達はとりあえず……恐らくだがあの女性を見殺しにし、依頼主の下へと向かった。

 実際のところ、あの男が殺人を犯そうとしている――或いはもう犯していたのかもしれないので、譬え大義名分があったとしても警察に通報だけでもしておこうかと考えたが、この世界ではどこまでが合法でどこからが違法か私達には判別がつかない、そしてどこまでが合法でどこからが違法かもわからないので、結局警察に通報するのもやめて私達はこの出来事をで忘れる事にした。


 そして現場に到着した我々は、良い意味でうんこが臭そうな依頼主の指示の下、私達以外にも集められた他の冒険者――普通の意味でうんこが臭そうな日雇い労働者達と共に害虫駆除もサクッとこなし。報酬を受け取るため私達は再び冒険者ギルドへと戻った。


 ――そしてその報酬を受け取る時の事だった。


 我々3人はまだこの世界に来たばかりなので、当然ながら銀行口座等がなければドク口の色気もない。なので窓口での現金手渡しだったのだが――。

 まあそれ自体は特段何も問題なかったが、カエルが報酬を受け取った直後。

「ミ・カエル様ですね? 今回の依頼クエスト成功で冒険者ランクがC級からB級に上がりました」

 と、恐らく昆布を擬人化した獣人のケモ耳美人受付嬢に言われるカエルだったが。

「はぁ……左様で」

 とカエルの方は非常に素っ気なかった。


 この態度――昔ミニブタカフェだった心霊スポットくらい気になったが、私以上に気になったのがドク口だったようで、我々は邪魔にならないように窓口から横に捌けるとすぐに――

『カエルさん。昇級したのにあまり嬉しそうじゃないですね?』

 とドク口が疑問を呈する。これにカエルはハニカミ。

「まぁ、CからBは特に何も変わらない――あくまでAへのステップなだけなので嬉しいか嬉しくないかで言えば、一応は嬉しいかな? 程度ですね。それよりも今はもっと気になった事がありまして……」

『気になった事?』

「ええ、ドク口さんも気になりませんでしたか? 私達って冒険者として冒険者ギルドにまともな登録ってしてないじゃないですか?」

 まあ、身分証がないからな。名前ですらこっちが勝手に名乗った物で登録されている訳だし。なので仮に私が半沢直樹と名乗っても……いや、この世界で半沢直樹だと差別になるから倍沢直樹と名乗ってもそれで登録されていた事だろう。やられたらやり返す……半分だけな。っといった感じで要はハンドルネームやペンネームと一緒……ハンターネームといった程度の物なのだろう。

 と私が考えているとカエルが続ける。

「写真付きの身分証なんてないのに、あの受付嬢は私の顔を把握していたのが気になった……という訳です」

『あ、そっか。私達って審査も3人で受けて、ICカードも3人で一緒だったからギルドからしたら3人の内訳なんて顔を覚えていない限りわかる訳ないのか……』

「その通りです。なのに審査の時に居た訳でもない初めて出会った受付嬢が私の顔をわかっていた。……なのでフト疑問に思ったのです」

 ――と。

「顔認証でしょう?」

 私だった。

『顔認証?』

「あ、なるほど」

 ドク口、カエルが順番に零すが私は続ける。

「ほら、審査の時に意味のなさそうな水着審査ってあったじゃないですか? たぶんあれ、水着にカメラが仕込んであってこっちの顔を録画してたんだと思います」

『ホントに意味なっ! 水着審査で隠し撮る必要ないじゃないですか! この建物内にいくらでもカメラ置くところあるでしょう?』

「水着審査で隠し撮りとか卑猥ですよドク口さん。知らない人が聞いたら誤解するじゃないですか?」

『そりゃそーですよっ! そこだけ切り取ったら誰だって誤解しますよ! どこの世界に水着の方が服着てる人間を盗撮するなんて発想が出てくるんですか!』

 大仏のマスクがコメカミに青筋立ててそうな怒鳴り方をしてくるドク口に――カエルが静かに口を開く。

「――水着を覗く時、水着もまたこちらを覗いている」

『なに「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている」みたいに言ってるんですか。全然格好良くないですよっ!』

「そうですね。怪物と戦う者は、戦う内に自らも怪物とならないように用心した方が良い……つまり、水着を覗く者は自らも水着にならないように用心しろというニーチェの言葉ですね?」

 これを言ったのは私だ。

『ニーチェがそんな事言うワケないでしょう! なに捏造してるんですか!』

 いや、名言として残ってないだけで言ってたかもしれないだろう?

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