ミステリー
私が歩き出したのに合わせ、ドク口とカエルも動き出す。私達はすぐに歩道へと戻り――そのタイミングでドク口の大仏マスクがこちらを覗き込んできた。
『結局のところ――ノレさんはハイリスクローリターンだと思ったからあの女の人を見捨てたって事ですよね?』
これに私はコンマ1秒くらいだけ考え込み。
「いや、ハイリスクローリターンというよりハイリスクノーリターンだと判断したから切りました。仮にもし男性の方が悪者だったとしても、我々には既にこの国の王様がパトロンについていますし、更には世界で3本の指に入る魔法使いがケツモチにいますからね。それなのに命を懸けてあの女性を助けるメリットがない……という判断です」
「で、更には女性の方が悪人で男性がそれに対しての復讐者の可能性が高いとなれば――シカトという判断がベストとなった訳ですね?」
これを言ったのはカエルだ。まあ、パトロンとケツモチが居るのは私とドク口だけだが、同郷のよしみでカエルが困っていたら私が助けてやろう……極力ドク口と竹中に任せるが。
と思いながら私はカエルに無言で頷いた。するとそこへ再びドク口。
『いや……それをあの一瞬で判断して、躊躇なく引き返したって事ですよね? 前からちょくちょく思ってたんですけど――ノレさんて結構サイコパスですよね?』
死神に言われたくはないな。だが――
「違いますよ。私はサイコパスじゃなくてソシオパスです」
『ソシ……? え? 何ですかソシオパスって?』
――と。
「ソシオパスとは『世界に一つとない
これもニコニコ微笑んでいるカエルだった。
『世界に二つとないじゃなくて一つとないぃ? いや世界に一つとないってそれこの世に存在しないって事ですよっ!』
いや、脂ぎっしゅなうんこなんて存在しなくて良いだろう。なんだ脂ぎっしゅなうんこって……ライオンみたいな肉食獣のうんこか? いやライオンのうんこに追いオリーブでもしたのか?
と私が考えているとカエルは朗らかに続ける。
「はっはっはっ。まあ今のは冗談で、先天的反社会性パーソナリティ障害者の事をサイコパスと言います……」
カエルの言葉に私も顔を向ける。どうやらカエルは知っているみたいだな? と思いながら私はカエルの言葉の続きに耳を傾ける。
「これに対し後天的反社会性パーソナリティ障害者の事をソシオパスと言います」
『えっと、つまり親からの遺伝や生まれつきならサイコパスで、後から何らかの要因でなる場合はソシオパスって事ですね?』
その通り。
『って事はノレさんて、過去に何か今みたいになるきっかけというか原因があったって事ですか?』
「……ええ、そうです」
無論これは私。
――そう。私は元々こんな性格ではなかったし、こんな喋り方でもなかった。
「まあ、わかると思いますけど――私ってこんな見た目じゃないですか? なので教室の端っこで大人しくしていても、否が応でも目立つんですよ」
『あ~確かに。ノレさんてホント喋らなきゃイケメンですもんね? 寧ろ大人しくしてる方がミステリアスなイケメンとしてクラスで目立っちゃいそう』
そうだな。お前も喋らなきゃホントただの白骨死体なんだがな。山で昼寝をしていたら登山家が勘違いするぞ……
と考えながら私は先を続ける。
「で、自分で言うのもなんですが、そのせいでモテたんですよ私。何もしてなくても女子の方から寄ってくるみたいな……ま、それが気に食わなかったんでしょうね? ヤンキーに目を付けられて、ある日呼び出しをくらってボコボコにされました……」
『えー? 酷い話ですね?』
と首をコキコキ傾げるドク口だが――そうか。お前もわかってくれるか……そうだよな。自分がターゲットの名前間違えたのに、辻褄合わせのためだけにターゲットを直接殺しに来る死神とか理不尽極まりないよな?
……とは直接口に出さなくなっただけ私も大人になったな……と考えつつ。
「まあそれからというもの教室でヤンキーに遭うたびに絡まれるようになりましてね。このままではマズイと思った私は気を強く持つように、今の性格へと変わっていったんです」
但し、この内心をそのまま口に出すとまた要らぬ恨みを買うと判断したから口調だけは丁寧にするようにして…………今の私が出来上がったのだ。
しかし当時は驚いたものだ。何故なら――
「しかし私も正直驚きました。まさか『主婦のためのお料理教室』にヤンキーがいるなんて思いもしませんでしたからね」
『中学校や高校じゃなくてお料理教室だったのっ!? 何やってんですかノレさんもヤンキーもっ!」
料理に決まってるだろ。
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