恋愛

 ……と思いながら私は更に補足する。

「まあ、BANはされないんじゃないですか? 実際には証拠となるような犯罪を犯している動画はなくて、山でソロキャンプしてる動画とかカリブの海賊に乗ってるだけの動画ばっかりですからね」

『さ、山賊なのにカリブの海賊に乗ってるってディズニーに入れてるって事ですかっ!?』

 と驚きの声を上げるドク口だが、別に驚く事でもないだろう? お前だって普通にホーンテッドマンションに出ているんだ、死神が入れるのに山賊が入れない道理はない。

 

 ……と考えた私は続ける。

「まあとにかく、動画の話は置いておくとして――普通、山賊ならあの状況は交渉に入るはずなんですよ。あれだけの圧倒的戦力差を見せつけ、相手はほぼ無力……いくらでも脅し取れるという状況でわざわざ戦おうとするのは労力の無駄。山賊としてはあるまじき行為です」

「確かにあの男性はまだまだ続ける雰囲気たっぷりでしたからね? つまりあらゆる観点からあの男性は山賊ではないと判断したワケですね?」

 これを言ったのはカエル。で、ドク口が続く。

『じゃあ結局のところ、ノレさんはあの男性を何者だと思ったんですか?』

 これを聞いた私は歩く速度を落とし――いや、徐に立ち止まり。


「たぶんですけど――良く変質者に間違われる変態かな……と?」

 私が小首を傾げていると、やはり一緒に立ち止まったドク口が横から。

『それ結局ただの変態ですよねっ!? 確かにあの人変な格好してましたけどもっ!』

 なので私は顔だけ横に向け。

「あれ? もしかしてドク口さん……変質者と変態の明確な差がわかっていらっしゃらない?」

 実は私もわからないが、どちらかと言えば――どちらかと言えば私も変態だという自覚はある。

『わかりませんよ! わかりたくもないっ!』

 ――という。どちらかと言えば変質者のドク口に、やはり一緒に止まったカエル。

「おや? となるとドク口さんは――もしやキモ豚とキモオタの明確な差もご存知ないのでは?」

『いや、さすがにそれはわかりますよ。てゆーかそもそもし、じゃないですか』

 ……。

 ……。

 …………。

「ドク口さん。何こんな場面で名言残そうとしてるんですか?」

 私が両肩を竦め眉をハの字に曲げていると。

『どこが名言なんですかっ! 貴方達が言わせたんでしょうっ! しまいには怒りますよっ?』

 え? お前まだそれ怒ってないの? やっぱり変態より変質者寄りだな?


 としていると、ドク口はまだプリプリしたままだが再びの質問。

『で? 実際のところどうなんですか? 何か当たりをつけたからあんな急に引き返したんですよね?』

 そろそろ真面目に答えるか……。

「まあそうですね。あの男性は明らかに金品目当てではなく、あの女性の命が目当てでした。なので敵討ちや復讐が目的だったのでは? と私は推測しました」

「あ、なるほど。それならば強引な手口や殺意の高さも得心がいきますね?」

 と、これはカエル。に続いてドク口。

『でも女性の命が目当てなら殺し屋とかって可能性はないんですか? あとはシリアルキラーとか?』

「たぶんその可能性は私の向上心より低いですね。もし殺し屋やシリアルキラーだったとしたら雑過ぎるかな……と。少なからずアマチュアである私から見てももっとスマートに出来るはず、プロなら尚更もっと上手く出来るはずです。なのにあの人はターゲットに助けを呼ばれてますから……結果として来たのが我々だったから見て見ぬフリとなっただけで、普通に考えればプロの犯行とは思えないですね」

「なるほど、それも尚更復讐者に輪をかけますね? 復讐者からすれば助けを呼ばれても大義名分は自分にあるから関係ない……って感じでしょうし」

 カエルの言葉に私は両の瞳を一度閉じると鼻から「フゥ」と息を抜き。

「まあ、結論として人災であった時点で我々に出番はなかったという事です。あの戦闘力に太刀打ち出来るとは思えないですし、余計な邪魔をして恨みを買うのも得策ではないですから」

 これだけ言って私は再び歩き出す。だいぶ戻ってきていたので歩道はもう目の前だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る