ラブコメ

 ――と思った私は、盗賊男達御一行様から視線を外さず、そのままの姿勢で一歩、また一歩と下がった。


(ど、どうしたんですかノレさん?)


 ドク口が話しかけてくるが私は返事もせずに後ろへと下がり続け、そのまま手招きをする。するとドク口とカエルは1度顔を見合わせるも、私の意を汲んでくれたか黙って同じような姿勢でついてきてくれた。

(助けなくっていいんですか?)

(何かわかったのですか?)

 ドク口とカエルが順々に口を小さく開く。私は考え込むフリをしてから。

(今、あなたの脳に直接話しかけています)

『いや小声で言ってもメチャメチャ普通に聞こえてるんですけど!』

 ドク口ぃ~! こいつ普通のトーンで喋りやがっ……いや? まあ別にここまで離れれば問題ないか。……と思った私はうんこ座りから立ち上がった。


 ――ん? そういえばうんこ座りって言葉は聞くが、うんこ立ち上がりやうんこ起き上がりって言葉は聞いた事がないな? ……と、これはフリじゃなくて本当に考え込む。

 いや、良く考えればうんこ寝っ転がりとかうんこ体育座りって言葉も聞いた事がないからうんこ座りって言葉が特別なだけか……。


 という結論を導き出した私はドク口達に背を向け歩き出す。

「このまま戻ります。というか依頼主さんのところへ向かいましょう」

『あ、ちょっと待って下さいよノレさんっ!』

 ドク口とカエルが小走りで追いかけてきている足音が聴こえる。

『い、いいんですか? このまま依頼主さんのところに行くって事は、あの女の人を見捨てるって事ですよね?』

 視界の隅でドク口がチラチラと後ろを振り返っているのがわかるが――

「ええ、別に助ける必要はないと思います。寧ろ危険です」

『え?』

「ほぅ?」

 ドク口とカエルがやはり視界の隅でそれぞれのリアクションをする。

『助けるのに危険を伴うんじゃなくて危険なのですか?』

 これはドク口。

「何故そんな事が?」

 これはカエル。

「理由は――襲っていたあの男の人が山賊ではないからです」

 そしてこれは私だ。

「山賊じゃないという事は……もしやプロの無職?」

「恐らく」

 カエルの質問に私が静かに頷いていると。

『プロの無職ッ! なんか凄そうだけど全然凄くないっ!』

 とプロじゃない無職のドク口がなんか言っているが。

『そんな事より、どうして山賊じゃないってわかったんですか?』

 私は歩みこそ止めないが、ここで一度ドク口と視線を合わせ。

「理由はいくつかありますが、まず基本的に山賊は単独で通行人を襲ったりはしません。襲撃の成功率が著しく下がりますからね。なので今回のようにたった一人であんな複数人に仕掛ける事はまずありえません。命や人生が懸かった余程の事情でもなければ――例えば全肯定ヒロインなんてオタクの妄想だった……みたいな事でもなければありえません」

「なるほど」

 とカエルが頷いているのが見える。

『他には?』

 ドク口が訊いてくるので私は続ける。

「他には――胸がないのに巨乳と言い張る嘘乳きょにゅうヒロインとか……」

『いやオタクの妄想の話じゃなくて山賊の話ですっ!』

 あ、そっち? そっちだと……

「他には――山賊にとって襲撃というのはあくまで最終手段で普通は交渉、或いは脅しです。ここを安全に通りたかったら金を払え……みたいな」

「確かに襲撃には返り討ちというリスクが付き纏いますからね……そういう意味では一人で複数に仕掛けるのは相当ありえない話でもあると?」

 カエルの言葉に今度は私が頷く。すると横からドク口。

『それだったら脅しる方が遥かに安全で、労力まで考えると効率もいいって事ですね?』

「そういう事です」

『なんか……ノレさん山賊経験者みたいな口振りですね?』

「バカな事言わないで下さい。山賊をするならまず山を買わなきゃいけないじゃないですか」

『山買うお金あったら山賊する必要ないでしょう! どっちがバカな事言ってるんですか!』

 お前だろ。だから私が山賊なんか出来る訳がないという話だ。だが、補足をするなら――

 と私は溜息交じりでゆっくりと口を開く。

「経験者ではなくてユーチューブでそういう動画をたまたま見たんです。『山賊が山でソロキャンプしてみた』とかそういう動画です」

『それ暇な日の山賊の私生活垂れ流すだけじゃないんですかっ!? てか現役の山賊なのによくBANされませんねっ!?』

 それより先にまず逮捕されない事に疑問を抱け。そろそろ私人逮捕される系ユーチューバーだぞ?

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