ドク口とカエルのクラス分けテストの翌日だった。


 衣食住も確保でき、不労所得もあれば全盛期を過ぎた芳香剤もあり、更には自宅限定だがコレ腐というデジタル魔法もある。なので悠々自適な異世界スローライフを今日から満喫出来る――強いて言うならあとはモフモフではなくテュルテュルが居れば完璧な異世界スローライフだが、そのためには私自身がアメとムチとキモッを巧みに使い分ける最の低のテイマーにならなくてはならないので、私はモフモフではなくテュルテュルを諦めそのまま異世界生活を満喫する事にした。


 ――矢先だった。


『ノレさん。冒険者ギルドに行きましょう!』

 私はドク口の言葉に片手で額を押さえていた。



 この日。異世界スローライフの第一歩として、私がまず最初に選んだのは――私が一番良く着用している全裸にアイロン掛けをする……だった。なので早速全裸になって全裸で全裸にアイロンを掛けようと、上着を脱ぐために胸ポケットに挿してあったバナナをテーブルに置いたその時――インターホンが鳴った。

 私は顔を上げると同時にコレ腐にインターホンの映像を出すよう命じようかとも思ったが、家にコレ腐がなかった時のクセがそれよりも先に出たか……私は既に立ち上がり足は玄関へと向いていた。

 なので私はそのまま玄関へと行き扉を開けると――そこには大仏が居た。

「……」

 無言で視線を横にズラすと大仏の隣にはカエルが爽やかな笑みを浮かべている。

「おはようございます」

 カエルの挨拶に私は軽くアゴを引いて返す。

「……?」

 なるほど。つまりこの大仏はドク口のマスクか……とようやく理解が追いついたところで私は口を開く。

「ドク口さん。もしかして髪切りました?」

『髪切ったんじゃなくてマスクを変えたんですよっ!』

 そりゃそーか。こいつもともと骸骨ハゲだし。


 しかし死神が大仏のマスクってアンタ……これが死神ジョークというヤツか? と思いながら私は口を開く。

「それで? 雁首揃えてこんな朝からなんの用ですか?」


『ノレさん。冒険者ギルドに行きましょう!』


 ――そう。この台詞はこのタイミングでドク口が私に発したものだった。私はドク口とカエルにハッキリと聞こえるように「ハァ」と溜息を吐いてから片手で額を押さえ首を左右に振る。

「なんで私がわざわざ冒険者ギルドに行かなきゃいけないんですか……?」

『え? だって異世界に来たんですよ? 冒険者ギルドがあるなら冒険者になって、薬草採取に行ったら本来出現しないような強力なモンスターに襲われたりしたくないですか?』

 おい。逆に訊くが薬草採取に行って強力なモンスターが出現しないという保証は誰がしているのだ? でなければ「出現しないような強力なモンスター」などという言い方は間違いだぞ……ゲームじゃあるまいし。普通に考えれば大自然の中に薬草を採りに行くなどモンスターや誇り高き孤高の変質者に遭遇しに行くような愚行だろう? なのに本来出現しないような強力なモンスター? どんだけ脳みそお花畑な発想なんだ? 頼むからその脳内お花畑の中だけで薬草を摘んでてくれ。


 っと言ってやりたいところだが私はカエルに視線を合わせ。

「カエルさん。薬草採取って上級・下級どっちのクエストなんですか?」

「上級……の中でも最上級の特A級任務です」

 うわぁ……「そんなクエストはないです」と言って欲しかったが、本当にある任務なのか。で、特A級って事は強力なモンスターや大根おろしをするだけすっておろし金の方を食う宇宙人と遭遇するのは想定内の任務という事か……。ならまあそこに目くじらを立てる必要はないとして、この世界のお偉いさん? 達がまともな思考の持ち主達で良かった。……がしかしそれはそれ、これはこれ。私が冒険者ギルドに行く理由にはならない。


 ――ので。

「わかりました。ではお断りします。じゃっ!」

 言って私が扉を閉めようとすると。

『ちょ、ちょ、ちょっと待って下さいよノレさん』

 ドク口が扉を両手で止めてくる。

『わかりました。じゃあ薬草採取のクエストじゃなくて、デスゲームの参加者に変な仮面付けてルール説明をするクエストとかでもいいんで……とりあえず一緒に冒険者ギルドに行きません?』

 変な仮面マスクを着けてるのはお前だろう。……にしてもこいつ、なんで無理に私を誘う? カエルと二人で行けば良いだろうに……ん? あっ! こ、こいつもしかして実は私の事をスキ――――あらば殺そうとまだ考えているのでは? でなければこんな強引な勧誘はしてこないだろう?

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