序
会話をしている最中。ずっとテストの様子は視界の隅で捉えていた。なのでわかるが生徒達は与えられた酢マホ、与えられた魔法である「火 レベル1―13」を的にぶつける事に専念していた。無論、全員が全員だ。そしてその魔法が的である鼻から出たそばにちゃんと当たっていた場合、そばは焦げる程度、或いは上手く引火しても軽く燃えて炭になる……その程度の火力だった。
しかしコイツだけは違う。明らかに一人だけ全然違う――お久しブリーフとおひたしプリーズぐらい違う魔法を使っていた。
っと思いながら私は視線を這わせる。
実際使っているところを見た訳ではない。しかしこの――地面は抉れ灼け焦げ、的であったそばどころかそれを乗せていたレモン80個分のビタミンCを含んでいそうな台ですら跡形もなく消し飛んでいる。この威力を見れば誰でも「火 レベル1―13」ではなく、もっと高威力の魔法「父 レベル53―真顔でボッ立ち」ぐらいの魔法を使ったのは瞭然。つまりコイツは学園から支給された酢マホではなく、自分で持ち込んだ別の酢マホを使ったという事である。
――アホなのか?
これが私の率直な感想である。そもそも入学試験じゃなくてクラス分けテストだぞ? なんのための不正だ? どうしても魔法学校に入りたくて99歳で初めて不正をするならまだ理解も出来るが、これはただのクラス分けで不正をしてまで上のクラスに行く意味よ……リスクとリターンが合っていないだろう? ドク口やカエルの精神を見習え……と言いたいが、どうせ食べるラー油を食べたくないラー油に変えたいだけの、イキりたいだけのアホだろうから理解出来る訳もないか。まぁそもそもが「オレ何かやっちゃいました?」なんて台詞。何を求められているのか状況から判断出来ないアホが言う台詞だからな……。それを使ったイキりなんてアホの重ね掛け、千利休がヘソでタピオカミルクティーを沸かすレベルだ。
……というのは当然の
「あーあーやっちゃいましたねー」
と何処か声のトーンが高く楽しそうな竹中。
「何故か毎年いるんですよね……あの手の輩。こんな不正行為をしたら魔法適性なんてある訳ないので退学。……どころかライセンスも永久取得不可になるんですよ法律上。ま、
なるほど、それで若干楽しそうなのか。そしてこの学園の
実際にこいつだってやってる事はほぼ犯罪。無免許で自動車を運転して教習所に通っているようなもの、全裸で銭湯に行って風呂に入らず更衣室でスーツに着替えて帰って来るのと同じようなもの――いや、良く考えると後者2つは本当にただの犯罪か。
――ま、それはそれとして。
竹中は我々の方へと振り返ると一礼をし。
「では私は他の教員達と話し合い、あの輩を退学処分にするのとライセンス永久取得不可の情報を各国各機関に連絡しなくてはならないので、ここで一旦失礼させて頂きます。ドク口さんカエルさん、この後の実技も頑張って下さい。まあ、一番下のクラス狙いなので何もする必要はないでしょうが――くれぐれも不正だけはしないように……」
『モチロンしませんよ。永久取得不可にはなりたくないんで』
「ですね」
竹中の台詞にドク口、カエルと続く。
「ではでは失礼します」
と再び礼をした竹中は私達の下を去り――
――その後は実技試験も滞りなく進み、ドク口もカエルも実技試験を真顔でボッ立ちで終えていたので一番下のクラスは確定した事だろう。
それにしても結局ドク口はカエルに自分がしでかした事を告白しなかったな? ――まあ別にどうでもいいか……私には鼻から出たそばと棚から出た叔母くらい関係ないし。
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