モノローグ

 という事で。ここでの話し合いはここまでとなり――。「寮内の案内や寮生活の準備時間を考慮した場合、行動は早い方が良い」という竹中の提案により私とドク口は早速寮へと移動する事となった。


 そしてその際にトノサマからの生活費として私とドク口にそれぞれ20万円ずつが手渡される。

 ドク口曰く「似たような世界」が選択されているから文化や文明が似ている……という理屈はわからなくもないが、まさか通貨単位も同じ円だったのには驚いた。

 しかしまあ流石に紙幣までも全く一緒という事はなく、この世界の1万円札に印刷されている人物はVチューバーの「美男子イケメンマヨネーズ」だった。

 まさか私の元居た世界ではチャンネル登録者数が1人……つまり私だけなのだが、私が一騎当千なので実質チャンネル登録者数1000人と言っても過言ではない無個性Vチューバーの明太子イケメンマヨネーズが、この世界ではチャンネル登録者数20億人超え……つまり私が200万人登録している計算になるが、そんな無個性美男子イケてるメンたいマヨネーズが1万円札に印刷されていたのには驚いたが、5000円札に印刷されていたのはVチューバーではなくただの明太子マヨネーズだったので尚更驚いた。因みにそこそこのイケめんであった。


 まあ、そんな驚きはどうでも良いのだが。衣食住の住が安定したところでの20万円。これで当面の生活必需品を買い揃えろという事なのだろうが、来月からはいくら支給されるのかが謎だ……。しかしまあ、私とドク口は寮に付いている学生食堂も勝手に利用して良いと言われているので、ハッキリ言って食うにも困る事はまずないだろう。


 そして食と住が安定したところで残るは衣だが、私自身は捕まりさえしなければ全裸で過ごす事になんの抵抗もないので、外出ようにカジュアルな全裸とフォーマルな全裸を1着ずつ用意すれば問題ないだろう……捕まる事以外は。なので衣もこれで安定したと言えるので、私の異世界ハードライフは早くも勝ち確……というか、明らかに働かなくても生きていけるので前より生活水準は上がっていると言えなくもない。つまり好きな事で生きていくのがユーチューバーなら、好きな事でさえしないで生きていくのがこの私だっ!! そう。この世界の人間はもっと私を甘やかすべき、息をしているだけでも褒めるべきだっ!


 っという事でトノサマから20万円を受け取った私とドク口はここでトノサマと別れ、竹中の引率で寮を目指す事となった。

 そしてこの時。竹中は最初に車を用意すると言っていたのだが、情報収集も兼ねて私が「この世界、この町の様相をゆっくり見学しながらいきたいので徒歩で行こう」と提案したところ、ドク口もその意見に乗っかってきたので我々は徒歩で寮へ向かう事となった。

 無論、事前に訊いた話では徒歩で寮までにかかる時間は1時間程度との事で、徒歩でも簡単に踏破出来るのは確認してからの提案だった。なので実際には瞬間移動なら1秒前後、自分探しの旅なら10年前後かかるといったところだろう。尤も何が起きても、いついかなる時でも決して自分を見失わない私に自分探しの旅は不要であれば、瞬間移動は1度に使うエネルギーを貯めるのに10年かかると言っていたので、瞬間移動での自分探しの旅は20年かかると思っていた方が無難だろう。なので徒歩となった。


 こうして異世界において魔法使い、勇者、死神の即席パーティーが結成され、寮までの短い冒険が始まった。……と言えばそれっぽいが、実際はさっき言った通りただの見学、車での流し見ではなくゆっくり町並みを見たかっただけの話だが、これは個人的には大正解であり、ナーロッパという国を垣間見る事が出来たと思う。

 例えばパッと見だけの町並みで言えば、やはりと言うべきか中世ヨーロッパの町並みなどではなく、現代のニューヨークや群馬県といった高層ビルの並ぶコンクリートジャングルであり、道路も当然石畳とかではなく生の畳……ではなくアスファルト。走っているのも自動車やバス、無人タクシーに無人バス……を運転する力士。空を見上げれば飛行機にヘリ、空飛ぶ絨毯じゅうたんに空飛ぶ絨毯を運転する無人力士も見かける……と、そんな私達の居た世界とさほど変わらない風景だった。――が、やはりと言うべきか、酢マホというデジタル化された魔法があるためか、私達が居た世界よりこちらの世界の方が些か文明が進んでいると感じるところも多々あった。

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