エピローグ

 ――ので私は口を開く。

「つまり酢マホに向かって呪文を唱えると、酢マホがそれに対応した魔法を発動してくれる……。だから酢マホさえあれば誰でも魔法が使える訳で、誰でも使えるからこそモラルや技量といった適性が必要になってくるのでライセンスがある……って事ですよね?」

 これに竹中は深い目礼を一つ挟み。

「概ねその考えで合っています。ただ細かい話をすると、酢マホに向かって唱えているのは呪文ではなく、アプリに命令しているというのが正しいですね。酢マホには専用のアプリがダウンロードされていてそれに命令しているという訳です」

 専用のアプリ? ……ああ、あの最初に言ってる「プリケツ」というヤツか。要はSiriみたいなもので「Hey Siri 友達の作り方を教えて」の「Hey Siri」の部分が「プリケツ」という事か。

 と私が考えていると竹中は再び酢マホを小さく左右に振り、続ける。

「本来、魔法は呪文の詠唱を経て発動するものなのですが、この『プリケツ』というアプリは呪文の詠唱を高速で自動でやってくれるという物なのです」

 なるほど。やはり私の考えは合っていたようだ。そしてSiriに似ている部分があるが、半ケツやフルケツだとこの世界では差別用語になるからプリケツという名前なのか……まあ、通常の思考の持ち主なら誰でもその名を付けるに至る……という感じだな。

 というところで更に竹中。

「例えばさっきの扇風機の風ですが、本来の呪文詠唱だと『空と大地のはざまりし精霊と、バンズとパテの間に居りしピクルスよ。我がイマジナリーフレンドの血と内臓脂肪をにえとし、我が呼びかけに応え汝の力とドク口への不満を示せ』となります」

「いやちょっと待って下さい。なんで異世界の精霊とピクルスが名指しで私に不満を洩らすのが呪文詠唱に入ってるんですか!」

 というドク口の不満に竹中は首を傾げ。

「なんでと言われても古から伝わる呪文ですし……私もずっとこのドク口が何を表しているのかわからなかったのですが、今日ようやく理解出来ました」

「古からなんで私の名前がっ!?」

「あ、因みに今の呪文詠唱は第1章で最後まで唱えると15章まであります。そしてその15章までに『ドク口』と『不満』という単語はそれぞれ35回出てきます」

「ちょ、古のピクルスと精霊はどんだけ私に不満を抱えているんですかっ!」

「いや、だから私に言われても……」

 と、やっているドク口と竹中だが――


 なるほど。あの文章量が15章まであって、その後に魔法を発動させるとなると、人間の口で唱えるのは一苦労なのは間違いない。それをあの早さで処理出来るとはプリケツの優秀さが窺い知れる。そして酢マホ1台でどれだけの事が出来るのかまではわからないが――既にこの時点でかなり便利であるという事は、トノサマのSP全員が持っていた事からも推測出来る。これは確かにこの世界で生きていくには魔法学校に通ってライセンスを取得しておいて損はないだろう。


 ――と。


「如何でしょうノレ殿、ドク口さん。寮だけでなく私の経営する魔法学校『ハリ一・ポッタ一と魔法の』学園に通ってみるのも悪くないと思いますが?」

「ハリはじめ・ポッタいっちって誰なんですかっ」

 というドク口に私。

「え? そこ気になります? 学園の名前だし誰でもよくないですか?」

 寧ろ私は「ハリ一・ポッタ一と魔法の」で区切られた方が気になったのだが? 場合によっては「ハリ一・ポッタ一と魔法の全裸正座待機」学園とかの可能性もあったのだぞ……あ、いや流石に学校の名前に全裸正座待機はマズイか…………体罰を彷彿とさせるからな。これはアンラッキースケベだった。


 と私が考えているとトノサマもプッシュをしてくる。

「うむ。ワシからも一応勧めておこう。人並みの生活が出来るよう2人に支援はするが、人並み以上の贅沢がしたいのならば自分達で稼いでもらうしかない。そうなると魔法はあった方が良いと思うぞ?」

「そうですね。前向きに検討します……というかノレさんがどうするか知りませんが、私はもう入る気マンマンです!」

 と、豊満な肋骨をドンと手で叩くドク口だが――


 ドク口はその気か……ならまあ私も後ろ向きに検討はしないでおこう。

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