プロローグ

 ふむ。とりあえずこれで衣食住の住はほぼ安定したと言えるな?


 と私が首を傾けつつも頷いていると竹中が再び続ける。

「良かったらお二人も入学してみますか? この世界に居るなら魔法はあった方が何かと便利ですよ? 勿論、入学金も授業料もとりません。ただ代償として語尾が必ず『きゅるるん☆』になっちゃいますが……」

「なるほど。そこだけ聞くと破格の待遇ですね? つまり入学すれば私も魔法少女になれるって訳ですね? きゅるるん☆」

 と私がちょっとだけ素を出すと横からドク口。

「この人もうなる気マンマンだよっ、適応力高っ!」

「え? でも魔法少女として14~15歳オーバーなら誤差の範囲じゃないですか?」

「年齢の問題じゃなくて性別の問題なんですよっ! しかも14~15歳オーバーはもう誤差の範囲じゃない!」

 まあ普通に考えたら魔法少女の適齢期の倍か……確かにそれで語尾にきゅるるん☆はキツイか……いや、私の可愛さならギリイケるんじゃないか? しかも実際には竹中が語尾にきゅるるん☆を付けていないから、入学してもこの代償は払わなくても大丈夫と推測出来るが問題はそれより――

 と、私がここまで考えていると、ドク口が先に私の疑問を口にしてくれる。

「いや、それよりですね。ノレさんは元々魔法が使えませんし、私もこの世界に来て魔法が使えなくなっちゃったから魔法学校に通うのは無理なんじゃないですか?」

 すると竹中は片手を振り。

「あ、それなら心配いりません。この世界ではライセンスさえあれば誰でも魔法が使えます。つまり魔法学校というのはそのライセンスを取得するための学校という事です」

 あー自動車の教習所と同じという事か……しかし習えば誰でも使えるものなのか?

 という私の疑問を察したからなのか、竹中はテーブルの影で見えはしないが恐らくポケットか何かからソレを取り出した。


「コレ、なんだかわかりますか?」

 と言って片手で持つソレを顔の横で振る竹中。

「それって――スマホじゃないんですか?」

 竹中が顔の横で振っている物。それは私の目には普通のスマホにしか見えなかった。まあスマホじゃなかったら次世代型醤油差しにしか見えないので素直なリアクションをしたつもりだが竹中は尚もそれを振りつつ。

「良いリアクションですね。実はこれ魔法を発動させるためのデバイスで『酢マートマホウ』略して酢マホと言います。調味料のお酢にカタカナのマホで酢マホです。因みに携帯電話の方はスマートフォンなのでスマフォと言い、会社の上司が全裸で仕事をしている全裸ハラスメントは全ラと言います」

「最後の略す意味よ……」

 ドク口がなんか言っているが――。

 酢マホ? いやそれより魔法を発動させるためのデバイス? どういう事だ?

「まあ見ていて下さい」

 ここまで言うと竹中は我々に見やすいようにか酢マホを持った手をテーブルの上へと乗せ。

「プリケツ! 火 ライター」

 という謎の呪文を唱えると、酢マホの画面が点いたと思った時には……なんと画面から使い捨てライター程度の火が出ていた。これは画面に火が映っているとかではなく、恐らく本物の火が画面から浮き出ているのである。

「それ本物ですか?」

 ドク口が指差しながら訊ねれば竹中は屈託のない笑顔で。

「触ってみます?」

「ノレさんお願いします」

 すんげぇ速さで首こっちに振ってきたなドク口。しかしまあ、触らずとも手を近付ければその熱さで本物かどうかわかるだろう。……と思った私は早速尻を近付けてみた。

「アッツ!」

 やはり本物の火! 危うく驚いた拍子にオナラをして引火するところだったが、なんとか一命を取り留めたな。

 と私が額の汗を拭っていると竹中が再び酢マホに命令する。

「プリケツ! 火を消して。 風 扇風機」

 ――途端。酢マホの火は消え、竹中が私に酢マホの画面を向けると――爽やかな風。譬えるなら広大な草原を翔ける一陣の風に乗った加齢臭よりかは爽やかな風。扇風機の弱程度の風が私に向かい吹き出していた。

 竹中は続いて酢マホをドク口に向ける。

「あ〜涼しい〜」

 とドク口がマヌケな声を出していると。

「プリケツ! 風を止めて」

「あ、止まった」

 どうやら竹中の命令で風は止まったようだ。そして。

「如何でした? これが魔法を発動させるデバイス『酢マートマホウ』です」

 なるほど。おおよそは理解した。

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