注釈
その最たる例はコンビニだろうか? 我々の世界ではコンビニといえば道路沿い、道路脇などにあるのが殆どだが、この世界では意外な事にコンビニの上にコンビニがあったり、心霊スポットの上にコンビニがあったり、世界遺産の上にコンビニがあったりと……一体どういうテクノロジーで建てたのか不明なコンビニが点在していた。
そんな情報を得つつ1時間近く歩いた頃――周りの景色にはちらほらと緑が増え始めていた。とはいえ、まだまだオネェの交通量が多い大通りの隅を歩いていると――
「そろそろ見えてきますよ」
歩みを止めない竹中がそのまま右手である方向を指差す。
「アレが学園です。そしてそのすぐ横に見えるのが寮で、更にその隣が大仏殿です」
「だいぶつでんっ! なんで学内に大仏殿があるんですかっ?」
死神が有りもしない驚愕の表情を浮かべているが、竹中は至ってクールに。
「え? そりゃあ宇宙人とかが侵略して来た時に戦うためですよ?」
「だ、大仏が巨大ロボットになってて、それで戦うって事ですか?」
「いや、普通に和尚さんが戦います」
「なら大仏殿の必要ないじゃないですか! お寺だけでいいでしょ!」
いや学内に寺も必要ないんだけどな……。まあ、こうやって大仏殿はダメでも寺はOKみたいな風潮が生まれてくるのだろう。
なんて私が考えていると竹中は一人冷静に。
「どうぞこちらです」
とそのまま大通りから右へと曲がり畑沿いの道へと進入。それに私とドク口も続く。そしてその道に入ってからほんのわずか、数十歩ほど歩いた時だった。
「――ッ!」
私は畑から急に飛び出して来た影に驚き歩みを止める。そして影の主もこちらに驚いたのか私の前に立ちはだかる形で動きを止めていた。影の大きさは猫……いや、中型犬くらいはあるだろうか? 私が落ち着いてその姿を確かめると――
「つ、角の生えたウサギ?」
思わず呟けば、ドク口からは私がブラインドになっていて見えていなかったか。
「ホントですかっ! 今や異世界ファンタジーで角の生えたウサギと言えば、ゴブリン、スライムに続く序盤に出てくるザコモンスターの定番じゃないですか!」
……お前。なんか楽しそうだな?
「ノレさん。私にも見せて下さいよ!」
と言ってドク口が私の肩口から顔を覗かせば。
「……」
良いリアクションだドク口。元々虚ろな瞳が完璧な空洞になってるぞ!
しかしそれも一瞬の事で瞬時にドク口の瞳に怨嗟の炎が宿る。
「角の生えたウサギってアレ、カブトムシの角じゃないですかっ!!」
――そう。私の前に現れたウサギ……そいつは額にイッカクのような角ではなく、カブトムシの角を生やしていたのだ。
「いやそれでも角の生えたウサギである事に違いはなくないですか?」
と言ってみるが。
「あんなの全然違う! 私が求めてた角ウサギはこんなんじゃないっ!」
と地団駄を踏んでエキサイティングしているドク口だが、これを見兼ねたか竹中が片手をかざし。
「落ち着いて下さいドク口さん。あれはウサギじゃなくてカブトムシです」
『カブトムシなのっ!?』
流石に私も声が出た。
「はい。ヘラクレスオオカブトウサギというカブトムシで、世界最大最強のカブトムシですが人間を襲ったりするモンスターではないです。朝方とかだと樹液を啜っている姿とかを見る事が出来ますよ」
「この見てくれで樹液吸うんかい……」
とドク口が頬に汗を垂らしていた時だった。
『――ッ!』
轟音と共に衝撃が走り、私達はその衝撃からタタラを踏む。そしてその衝撃の原因だが――上空から不意に何か巨大なもの……自動車より一回りは大きいであろう巨大な塊が私達の目の前に垂直に落下してきたからだ。つまりその巨大な塊が地面に激突し、地を揺らしたので私達はタタラを踏んだという訳だ。そしてその巨大な塊とは――
「ド、ド、ド、ドラゴンッ!?」
ドク口の言う通りだった。
無論、私達の世界でドラゴンと子供服モデルのおじさんと言えば架空の生物だが、その姿は誰もが知っている。そして今、目の前に落下してきたこの巨大な生物は紛れもなくそのおじさんだった。……訳もなくドラゴンだった。
ブラックドラゴンとでもいうのだろうか、翼を生やした巨大なトカゲは黒く光るメタリックなボディで圧倒的な存在感を示している。
――が。
「落ち着いて下さいドク口さん。それもドラゴンじゃなくてカブトムシです」
『これもカブトムシなのっ!?』
私とドク口が揃って声を上げれば。
「というかそれ、ヘラクレスオオカブトウサギのメスです。ほら、こっちは角が生えていなくて、あっちのオスは角が生えているじゃないですか?」
なるほど。カブトムシならこの黒光も納得出来る。
しかし私とは違いドク口は納得していなかったか。
「いや角の有無より明らかに種族が違い過ぎでしょっ!? こんなのが朝方仲良く樹液啜ってるの想像出来ないんですけどっ!」
別に想像する必要はないだろ。事実だけを素直に受け入れろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます