しおり
――とまあ予期せぬ襲撃はあったものの、我々はヘラクレスオオカブトウサギのリア充共をスルーするかの如く後にし。無事、寮に辿り着く事が出来た。まあ、あんなカブトムシが近くに生息している、豊かな緑と豊かな変質者に囲まれたのどかな学園と心しておこう。
それはそれとして肝心の寮だが――
結局のところメインは学生の部屋であり、それ以外で説明するところは学食と学食のおばちゃんの口癖くらいだったので竹中は最初にパパッと学食の場所だけ案内し、すぐに私とドク口をそれぞれの部屋へと案内した。
まあ想像していた通り私とドク口は隣同士の部屋で、内部構造も同じ事からとりあえず私の部屋で竹中が色々と説明してくれる運びとなった。そして……
竹中はまず私の部屋の前でこちらに振り返ると、自らの顔の横で右手の人差し指と中指に挟んだ2枚のカードを私達に見せる。
「これがカードキーです。これを持ったまま扉の半径1メートル以内くらいに近付けば、あとは取っ手上にあるボタンを押すとロックが解除されます。それぞれお渡ししますので、とりあえずこの部屋は勇者殿の部屋なので勇者殿が開けてみて下さい。それと後でスペアキーもお持ちします」
と言って竹中は私とドク口にカードキーをそれぞれ差し出す。私はボンヤリと眺めながらカードキーを受け取ると……
『見せてやりますよ。本当のもりそばってやつを……』
いや別に見たくないのだが? というかカードキーにこんな台詞書く必要があるのか?
と私が疑問を抱いていると。
「と、豚足の歴史にまた1ページ……?」
隣でドク口がカードキーを見つめたまま呟いている。
なるほど。ドク口のカードにはそう書かれていたのか……。という事はこれは部屋番号か。しかし驚いたな、どこの世界に学食のおばちゃんの口癖を部屋番号代わりにする学生寮があるのだ? 尤も――これらの台詞が学食のおばちゃんの口癖だというのは私の勘だが……。
と推測しながら私は竹中に言われた通りに部屋の扉を開いた。そして私、竹中、ドク口の順で玄関へと入ると――
「コレ
背中から竹中の声が私を通り越して行き、それとほぼ同時に私の視界に入っている全ての電気が一斉に点いて宵闇を払った。……が。
「コレクサ?」
私が首を捻り呟くと。
「はい。バーチャルアシスタントAIの事でカタカナの『コレ』に、常温でそこら中に2週間放置して腐った寿司……の『腐』るという漢字を書いて『コレ腐』です」
バーチャルアシスタントAI? ……あぁアレクサの事か。そしてそこら中に寿司を放置するという事はリアルちらし寿司という事か。
っと私が納得していると竹中は続ける。
「因みに今は空き部屋だったので、管理している私と寮母の声に反応するように設定されていますが、あとで勇者殿とドク口さんもそれぞれの部屋で声紋登録をしましょう」
なるほど。それで私達もコレ腐を使用出来るようになる訳か。
としていると隣で手が上がる。
「あ、えっと、じゃあ軽く質問ですけど。コレ腐ってどれくらいの事をやってくれるのですか?」
勿論ドク口だった。しかしこれは良い質問。私も訊いておきたかったので素直に竹中に注目する。
「そうですね。想像するバーチャルアシスタントAIが出来そうな事……なら大抵出来ると思います。というか、なんでも1度は命令してみるといいと思いますよ? 出来ない場合は『申し訳ありません。無茶ぶりです』って返事しますから」
ほぅ? つまり手探りの方が早くて理解し易いという事か。まあ、酢マホというデジタル魔法がある世界だから、その技術と併用すればかなりいろんな命令を実行出来そうだからな? しかしそうなるとコレ腐も免許が必要なのでは? ……と思ったがこれは室内限定というか自宅限定だから免許がいらない感じか……? 要は車も交通のない私有地なら運転するのに免許がいらないのと同じ理屈か。
……と私が脳内で補完していると竹中。
「じゃあちょっと試しに無茶ぶりしてみますね? コレ腐! 一晩で細マッチョをゴリマッチョにして!」
『……』
……。
……。
…………。
「あ、出来ちゃうみたいですね?」
「出来ちゃうんですかっ!? どんなテクノロジー!?」
ケロっと零す竹中に驚くドク口だが……まずそれを成し遂げるには細マッチョを捕獲してきてこの部屋に入れなくてはいけないのだが――。ふざけるなここは私の部屋だぞ? 野良マッチョなど絶対部屋に上げるものかっ!
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