添削

 私がマッチョに憤りを覚えている中で竹中は続ける。

「すみません。じゃあもうちょっと難しい無茶ぶりをしてみようかと思います。コレ腐! さっきのマッチョのは取り消しで、代わりに一晩で野生の片ハゲを血統書付きの丸ハゲに変えて!」

 すると。


『申し訳ありません。無茶ぶりです』


 という音声ガイダンスのような声……ではなく、アンパンマンガチ勢のような声が天井から聴こえてきた。無論これは天井にくのいちが張り付いていたり、天井裏にくのいちが居る訳ではなく、普通に天井の隅にコレ腐のスピーカーが付いているだけの話である。

「あ、これは無茶ぶりなんだ。私には基準が良くわからないけど……」

 とドク口が呟いていると竹中。

「とまぁこのような音声が聞こえるので、これが聞こえなかった場合。コレ腐はそのまま実行すると思ってもらって結構です」

 なるほど。それは理解したが、何故さっきから私の部屋にマッチョやハゲを招き入れようとするのかが解せない。もしやハーフ兵衛……ハゲマッチョが親戚に多いのか?

 と私が考えていると。

「コレ腐! パソコンの電源を入れて!」

 と竹中が叫んだ。

「これでパソコンの電源が入っているはずです。とりあえずお部屋の中を案内しますので、そのままパソコンのところへ向かいましょう」

 というのでわたしとドク口は無言で頷き、素直に竹中の指示に従った。


 そうして案内された部屋は学生寮という割に広く、多い。トイレ、風呂、キッチンは勿論。ダイニングにリビング、寝室に音楽準備室。……但し音楽室はない。更にはタンクトップをしまうだけの部屋と短パンを飾るだけの音楽準備室。ハッキリ言ってそれは短パン準備室だと言いたくなるが、とりあえずコレ腐がないと困るレベルで広い。そしてこれは素晴らしい事だが、コレ腐だけでなくソファやテーブルにベッド、テレビ、エアコンに洗濯機、冷蔵庫、ルンバに木魚と……最低限の家具が揃っているのに、さっき竹中が電源を入れるように命令していたパソコンまで備え付けられている――。と、最初からかなり快適に過ごせるような設計となっていた。まあ私個人としてはあとは全裸になるための更衣室があれば完璧だったが、学生寮にそこまで求めるのは酷だろう。

 しかし個人的に気になったのは学生寮でコレ腐を配備しているのに、王様が居る城にコレ腐を配備している気配がなかったのは謎だ……と記憶を振り返ってみたが、良く良く考えれば城の方が作ったのが昔で、新しく配備するのに手間と時間がかかるからやってないだけ……の話か? まあ或いはバーチャルアシスタントAIより生のメイドの方が好きなだけの連中が多いのかもしれない。実際私も成長痛が致命傷になるメイドの方が好みだしな。


 と、それは置いておくとして。生活のための細かい備品。タオルや電動ではない歯ブラシ、折り畳みではない傘といった生活用品は流石に自分で買い揃えなければならない。――ので、竹中曰くパソコンの出番らしい。


 で、それがどういう事かと言えば。

「では勇者殿。今日――これから必要だと思う物をネットで購入してみて下さい。大抵の物は2〜3時間後には到着しますので」

 今私はパソコンの前に座らされていた。そして後ろから竹中とドク口がモニターを覗き込んでいる形となっている。

 なので私が女村アマゾンを眺めながら必要そうな物を物色しているとドク口。

「要はネットショッピングって事ですよね? でもそんなすぐに届くものなんですか?」

「そうですね。大きい物や人気で品薄の物とかでなければすぐに届きます。目安としてはコンビニとかスーパー、そこらのデパートに行けば間違いなく手に入る物なら2時間3時間で届きます」

「おお、なるほどわかり易い」

 尚も私は必要そうな物……躍動感のあるティッシュや不健康そうなマネキンを買い物かごに入れながら二人の会話に耳を傾けているとドク口。

「あ〜でも服とかは実物見ながら買いたいかなー? なんで今日はホント必要な物だけネットで買って明日町に買い物に行きたいですね?」

「あ、じゃあお店とかわからないでしょうから私がご案内しましょうか?」

「ホントですか? じゃあ明日お買い物に行きましょう!」

 という話の流れになっていた。

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